「マキシ・ゴメス」協奏曲はバレンシアでフィナーレ
ビーゴの地元紙FARO DE VIGOは、セルタ・デ・ビーゴのウルグアイ代表FWマキシ・ゴメスを巡る「協奏曲」がバレンシアに移籍することでフィナーレを迎えると報じています。
恐らくはこれで決着だと思われる内容をまとめる前に、マキシ・ゴメス移籍を巡る動きを振り返っておきましょう。
このブログで初めてマキシ・ゴメス移籍の話を記事にしたのは、5月20日に執筆した記事「【ラ・リーガ】セルタ、FWマキシ・ゴメスを今シーズンオフに売却へ。」でのことでした。
この記事を書いている今日は2019年7月9日なので、約1ヶ月半に渡って「ChemaLog」ではこのニュースをお伝えしてきたことになります。
スペイン国内外複数のクラブから問い合わせがある中で、実際にセルタへオファーを提示したのは最終的にはイングランドのウェストハムとスペイン国内のバレンシアだったことになりますが、マキシ・ゴメス本人はバレンシアでプレーする希望を持っていました。
5000万ユーロに設定されたマキシ・ゴメスに対して、当初ウェストハムから3200万ユーロのオファーがありましたがセルタは「5000万ユーロ満額支払い」を求めてこれを拒否。
現在バレンシアでプレーする元セルタのFWサンティ・ミナの復帰を目指したセルタは、徐々にバレンシアとの条件合意にのみ集中することになります。
コパ・アメリカ2019に出場するウルグアイ代表に招集されていたマキシ・ゴメスは大会期間中にバレンシアの郷土料理であるパエージャをチームメイトと囲む写真を公式Instagramにアップ。すでにマキシ・ゴメス本人の心はバレンシア移籍で固まっていることを内外に向けてアピールしていました。
7月4には長い交渉の末、セルタとバレンシアの間で
|
という条件合意が成され、翌日もしくは7月8日の月曜日には正式に発表されるものと思われていたのですが、ウェストハムは再度セルタに対してオファーを提示。
その内容は「移籍金5000万ユーロを分割払いで満額支払い」というものでした。
3200万ユーロから始まったウェストハムのオファーが最終的に5000万ユーロまで増額されたものに変化したのにはウェストハム側の事情もあったと推察されます。
ウェストハムでプレーするオーストリア代表FWマルコ・アルナウトヴィッチが中国の上海上港へ移籍することが発表され、マキシ・ゴメスの代理人を務めるイングランドのスポーツコンサルティング企業ステラーグループの誘いもありウェストハムは提示金額を増額。
ウェストハムとしてはアルナウトヴィッチの移籍金で資金的にも余裕ができたために行われた再オファーでしたが、すでにクラブ間で合意していたセルタとバレンシア、そしてマキシ・ゴメス本人にとってはまさに「余計なこと」だったのは間違いありません。
このウェストハムのオファーによりステラーグループは最大1600万ユーロのバレンシアよりも5000万ユーロのウェストハムへマキシ・ゴメスを移籍させ、受け取ることのできる手数料が多いウェストハム行きを画策。
バレンシアは当然合意が成されているセルタとの交渉が優先されるべきだと主張しますが、セルタとしては5000万ユーロも捨てがたいという状況に陥っていました。
最終的にはマキシ・ゴメスの意思とセルタの一言が決め手に。
ウェストハムは移籍金をLFP=スペインプロサッカー連盟へ預託することで分割払いの実施とするようセルタ側に提案しましたが、セルタは「移籍金5000万ユーロの直接一括全額支払いを24時間以内に実施できるのであれば受け入れることもやぶさかではない」と、このウェストハムからの提案を実質的に拒否。
5000万ユーロ=約61億円もの現金を24時間で一括払いできる企業は恐らく世界中を探しても数社しかないはずであり、つまるところセルタは「拒否はしないが、バレンシアとの合意を優先させるために限りなく不可能に近い条件を提示した」という形をとることで、バレンシアとの合意を尊重したことになります。
これはある意味でスペイン人の性格を考えれば律儀な対応だったと言えるでしょう。
7月4日にセルタとバレンシアの間で結ばれたクラブ間合意が行われた場所は、ビーゴ市内の目抜き通り「プリンシペ通り」にあるセルタのクラブ事務所内でした。
バレンシアはセルタへの最大限の敬意として交渉の場をビーゴにしたということであり、いかにバレンシアからビーゴまでは飛行機で1時間半程度の距離とは言え「相手先に出向いて礼を尽くした」形のバレンシアに対し、セルタもその行動へ「合意の尊重」とう儀礼をもって対応したということになります。
また、バレンシアはこれ以上マキシ・ゴメスの移籍に関してはいかなる条件変更や提案もステラーグループとは交渉しない、としてステラーグループとの交渉を拒否。
表面上はバレンシアとステラーグループとの関係は破綻しかける結果となりました。
少なくとも2018年夏の段階までは、現在バレンシアでプレーするデンマーク代表MFダニエル・ヴァスの代理人もステラーグループが務めていたはずなのですが、この結果と状況を受けてヴァスやステラーグループがどのような判断・対応を取るのかということも今後気になるところです。
1つの物語が終りを迎え、別の物語が幕を開ける
2017年にセルタにやってきたマキシ・ゴメスはセルタで60試合に出場し28ゴールをあげてきました。
出場を重ねるごとにチームにもフィットし、イアゴ・アスパスとのコンビは日を追うごとに息が合うものになっていき、特に2018−2019シーズンの中盤にアスパスが負傷で離脱していた時期はマキシ・ゴメスがいなかったらもっと酷いことになっていたでしょう。
逆説的に考えてみれば、もしかしたらあのアスパスの負傷がなく、順位がヨーロッパリーグも狙えるような位置にいたのだとしたら、マキシ・ゴメスの移籍願望はあと数年先のことになっていたのかもしれません。
とはいえ、セルタ経営陣は累積赤字と負債の解消が見えてきた段階で以前放出せざるを得なかったカンテラ出身選手達の買戻し施策を推進する意向を持っていたことは変わらず、遅かれ早かれマキシ・ゴメスが移籍することになったのは間違いないと思われます。
いずれにしてもセルタファンとしてはこの2年間のマキシ・ゴメスのパフォーマンスには感謝しかありません。
まだ粗削りで、同じウルグアイ代表のエディンソン・カバーニやルイス・スアレスほどのレベルには達していないものの、ウルグアイ人センターフォワードらしい深い懐を活かしたポストプレーと正確なシュートは今後の大成を期待させるものだったことは間違いないと言えます。
苦しい時にチームを助けてくれたマキシ・ゴメスはビーゴを離れ、2024年までの5年契約でバレンシアへ旅立ちます。
願わくば彼の新しい物語において、マキシ・ゴメス本人が主人公となることを僕は祈っています。
サンティ・ミナはセルタ復帰へ
マキシ・ゴメスの移籍に決着がほぼついた一方、この移籍交渉の中で「もうひとりの主役」となっていたバレンシアのFWサンティ・ミナは、彼の願い通りにセルタへの復帰が決まることになります。
|
ミナはすでに始まったバレンシアのプレシーズントレーニングのために、パテルナ練習場に合流しておりメディカルチェックを行いましたが、セルタとバレンシアの間で正式に契約書へのサインが行われ次第、パテルナを離れてビーゴへ戻ることになるでしょう。
メディカルチェックを再度受けることになるだろうことは気の毒ですが、そこは我慢してもらうしかありません。
マキシ・ゴメスはヨーロッパを舞台にした新たな物語を紡ぎ始め、セルタに再び集うカンテラーノ達はヨーロッパを目指す物語を始めることになります。
2019−2020シーズンが終わった後、バレンシアとセルタがヨーロッパのカップ戦で顔を合わせるような機会が訪れれば物語としては映画級に美しいのですが、現実はそこまでうまくいかないでしょう。
いずれにしてもマキシ・ゴメスもサンティ・ミナも希望がかなったことは間違いありません。
この移籍に関わった全ての関係者にとって、新シーズンが納得のいくものになることを、僕は願って止みません。