【セルタ】2020−2021シーズンのセルタ・デ・ビーゴを振り返る(1)

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リオネル・メッシの退団騒動から始まり、収まる気配を見せないコロナ禍が続く中で始まったラ・リーガ・サンタンデール2020−2021シーズン。

結果的に最終節までもつれる大混戦となったシーズンは、最終的にアトレティコ・マドリーの11度目となる優勝で幕を閉じました。

ビッグクラブがいつものように経済的に豪勢な話題を振りまき、欧州スーパーリーグ構想が世界を賑わせ頓挫する様を見せる一方で、セルタ・デ・ビーゴはジェットコースターのようなシーズンを送ることになったのです。

2020−2021シーズン、セルタはどのようにこの1年を過ごしたのかをまとめてみたいと思います。

2020−2021シーズン前半戦

前半戦に関しては既に昨年12月31日に「2020年のセルタ・デ・ビーゴを振り返る」という記事で総括しました。

【セルタ】2020年のセルタ・デ・ビーゴを振り返る
リーグ戦とコロナ禍で苦しんだセルタの2020年を振り返ります。オスカル体制の終焉とコウデ体制による新生。生まれ変わったように快進撃を続けるセルタは2021年もこの調子を維持できるでしょうか?1年間セルタを見てきた感想と今後の展望をまとめました。

ざっとまとめると以下のような前半戦だったのではないでしょうか。

  • 勝てない
  • 最下位転落
  • チーム内不和
  • 監督交代
  • 劇的な変化

前半戦総括の記事でも書きましたが、オスカル・ガルシア・ジュンジェンからエドゥアルド・コウデに監督が交代して以降、攻撃面でも守備面でも大きな変化が現れました。

端的に言えば「点を取れるようになり、失点をカバーできるようになった」ということでしょう。

チーム状態は劇的かつポジティブに改善されましたが、失点を減らして負けなくなったというよりは「以前より点を取れるようになり勝利に近づけるようになった」という表現が正しいのだろうと僕は考えています。

実際問題として、シーズン全体でのセルタが喫した失点数は57。これは降格した19位バジャドリーと同じ失点数です。

その一方、セルタの総得点は55。

セルタ以上に得点したチーム、つまり「55得点以上したチーム」は、

  • バルセローナ
  • アトレティコ・マドリー
  • レアル・マドリー
  • レアル・ソシエダ
  • ビジャレアル

の5チームしかありません。

コウデへの監督交代後4連勝したことで示したように、前半戦のセルタにおける最大の変化は監督交代による攻撃の改善だったと考えるのが適切でした。

攻撃は改善。守備は変わらず

第1節〜第9節までの9試合で、セルタは6得点15失点でした。

2019−2020シーズン序盤に見せた「負けないが勝てない」というヤキモキする状況どころか、「点が取れない上に失点を重ねて負ける」というどうしようもない状況に陥っていたのです。

第1節のエイバル戦はアウェーで0−0の引き分けという一見順当に見えるスタートを切ることができ、第2節のバレンシア戦ではホームでシーズン初勝利をあげることで昨シーズンとの違いを感じさせるものでした。

しかし第9節まで1勝4分4敗。

「暗澹たる気持ち」とはこういうことを言うのだろうなと、ファンの誰もがうんざりした気分になっていました。

どうにもならないアスパス依存

2019−2020シーズン途中までセルタの指揮をとったフラン・エスクリバ時代には感じられた「少し歯車が噛み合えば何とかなるのでは」というぼんやりとした希望すら抱けそうにない展開が続き、セルタはとうとう最下位に陥落。

課題は明らかでとにかく点が取れませんでした。

アスパスが絡まないと点が取れない。

アスパスが頑張らないとチャンスが作れない。

アスパスが何とかしないとどうにもならない。

サンティ・ミナもブライス・メンデスもデニス・スアレスもノリートも、アスパスを使って何かできるわけでもなく、アスパスを追い越していく選手は皆無。アスパスが下がると全員下がり、アスパスが上がればその分ラインも上がっていく。

ある意味清々しくも、冷静に見ればどうしようもない状況が、ガラリと変わるきっかけだったのがコウデ就任でした。

アスパス依存からの脱却と責任感の誕生

コウデ就任後、セルタの攻撃は突然劇的に改善します。

第10節〜第18節までの9試合で16得点13失点。

コウデ就任前の9試合と比較した場合、実は失点数にさほど大差はないのですが得点が倍増しました。

第1節〜第9節までのセルタにおける得点者はアスパス、セルヒオ・カレイラ、そしてサンティ・ミナの3人だけ。

対して第10節〜第18節の得点者はアスパス、ノリート、ミゲル・バエサ、フラン・ベルトラン、ウーゴ・マージョ、ブライス・メンデスの7人。

チームのトップスコアラーがアスパスなのは変わらないものの、得点者が多彩になり攻撃の幅が以前より格段に広がりました。

オスカルとの関係性に問題があり完全に調子を崩して「過去の人」になりつつあったウーゴ・マージョは好調時のフォームを取り戻し、リーガ屈指の右サイドバックとして復活。以前のように右サイドでアスパスを追い越し、ボールをキープし、守備から攻撃まで全ての起点になるポイントとして不動の存在に昇華。

ゴールこそないものの、これまでよりもボールに触り、半歩下がりながら左右への散らしを意識的に増やすとともに前に運ぶ意識が高まったデニスの配球はチーム全体の攻撃を活性化させました。

持っているスキルを遠慮なく発揮し、キープしながらも抜くタイミングを逃さなくなったブライスは、結果的にゴール前まで入り込み得点を狙えるようになりました。

味方の前向きな変化を如実に感じたのか、これまでよりも周囲を使う意識に力みがなくなったアスパスは、得点のペースはほぼそのままにアシストも伸ばすことになりました。

端的に言えばアスパス以外の攻撃陣に各自の責任感が生まれ、それが発露されることで結果的にアスパスへの依存度が下がったことで攻撃の幅が広がったことになったと僕は考えています。

ただしその一方で守備面での課題=失点の多さはシーズン終了までついに解消されないままでもありました。

後半戦の問題点

2020年が終わるまでの間にコウデがもたらし、セルタが見せた変化は過去に例を見ない前向きなものでしたが、長年セルタが課題としてきた問題点はなかなか改善されませんでした。

それが守備です。

コウデの就任当初の数試合こそ失点が劇的に減少し、攻守に渡って大きな変化が起きたと思っていましたが2021年年明けのコパ・デル・レイで投資著しいイビーサに5失点で敗北すると続くレアル・マドリー戦で2失点。さらにビジャレアル戦でも4失点と複数失点、大量失点が続きます。

いずれの場合でも一度ボールを奪ったあとの展開時におけるコントロールや意思疎通、パス交換のミスが原因となって起きた失点でした。

攻撃に関しては既に述べたように結果としてリーグ6位の得点数だったことが示す通り、十分な改善が見られましたが失点の多さは結局完全には改善されない状況が続いていました。

2021年に入ってからの失点が目立つのは理由があると僕は考えています。

コウデ就任当初はデニス・スアレスとレナト・タピアの関係性や位置取りがまだ研究され尽くしておらず、最終ラインでボールを奪ったあとの展開でポイントが作りやすい状況があったはずです。

しかし特に第17節のレアル・マドリー戦以降でセンターバックからの組み立てを行う際、そして中盤のデニス・スアレスとレナト・タピアにボールが入る際のタイミングを狙ってボールを奪われ、そのままカウンターに持ち込まれる失点パターンが増えました。

その最たるものが第18節のビジャレアル戦で、これ以降コウデはセンターバックからの組み立て時における安易なミスを厳しく指摘するようになります。

結局シーズンが終了するまでこの点は完全に改善はされなかったため、もはやシーズン途中でありながら次のシーズンにはDFラインにどんな選手が必要かについてファンも地元メディアも議論を始める始末。

年明け早々にボカ・ジュニオルスとの契約問題でルーカス・オラサを放出せざるを得ない決断をし、ジェイソン・ムリージョのコンディション不良と来シーズン以降の継続可能性が低いこともあってDFラインの考え方が最後までまとまらなかったのは、2020−2021シーズンのセルタにおける最大の問題だったと言っていいでしょう。

チームとしての変化

2020−2021シーズンのセルタに起きた変化として最も印象的なのは、「チームとしての自信が生まれた」ことではないかというのが僕の感想です。

特に2019−2020シーズン最終節のエスパニョール戦で顕著でしたが、チーム全体に全く自信が感じられず、どこからどう見ても弱々しいチームでした。

2018−2019シーズン以降のセルタは連続して降格圏内からの脱出を目指して戦う状況が続いていました。

しかも悪いことに「自分達は弱いんだからしかたない」という思い切りの良さもなく、現状を受け止めきれずに「俺達はこんなはずじゃない」という現実を否定する気持ちばかりが先に立った、非現実的なメンタル状態だったように思えます。

2020−2021シーズン開幕後、第2節のバレンシア戦で勝利したタイミングでは、これで悪い流れを一気に断ち切れるかとも思ったのですが、結局その後もズルズルと流れは変わらないままでした。

コウデ就任後の初戦となったセビージャ戦で4−2の敗戦を喫したものの、ここからチームが息を吹き返したことを思い起こすと、この試合が転機になっていたのは間違いありません。

試合開始直後から全員が積極的に前に向かう意識が現れており、印象的だったのは19−20シーズンの中盤からどこか自信なさげで消極性が目立っていたデニス・スアレスが、移籍後最高とも言えるようなパフォーマンスを見せたことです。

最終ラインに下がってボールを受け、ビルドアップのスタート地点となるタピアからセンターライン近くでボールを受け、左右のノリート、ブライス、オラサ、マージョに的確に配球。

前が開けばドリブルで突っ掛け、塞がれれば散らしてスペースを探す。

デニスが開けたスペースにアスパスが下がり、ノリートとブライスが連動して前進し相手のサイドバックにプレッシャーをかけてセンターバックの視線を反らす。

選手の顔ぶれが変わらないのにまるで別のチームがサッカーをしているようでした。

デニスは眼光鋭くコースを狙い、ブライスとノリートは自らのスキルを確かめ楽しむようにプレーする。

アスパスはミナにもっと自分でやれと発破をかけ、ミナは「言われなくてもやってやらあ」と言い返す。

シンプルに、見ていて楽しそうでした。

僕が見たかったセルタの姿がそこにはあり、誰もが見たかったそれぞれの姿がそこかしこで発露していたのでした。

よくよく考えれば彼らが見せたものは「彼らが本来持っている姿」そのものです。

何も特別なことはしていません。

「こうして欲しい。こうあって欲しい」とファンが望んでいた姿を、それぞれの選手がシンプルに体現していただけです。しかしそれまでの選手たちはそれができていませんでした。

笑顔もなく、エゴも感じられず、気合だけは空回りして1プレーごとに誰もが下を向く。

自信のなさが形になったらこうなんだろうというような姿がピッチ上あちこちで見られたのが第9節までのセルタでした。

それが、まるで別人のように生まれ変わり、自信を取り戻したのがサンチェス・ピスフアンでの第10節セビージャ戦以降のセルタだったのです。

結果的にこの試合、セルタは4−2で敗れましたが、敗戦後の選手たちからはこれまでのような悲観的なコメントは一切聞かれませんでした。

「次はやれる」

「俺達は後ろを向いてはいなかった」

「これが自分達にできることだと証明できた」

次々に出てくるポジティブなコメントの数々は、とてもではありませんがホームチームに2点差を付けられて敗れた最下位のチームだとは思えないものばかりでした。

コウデがもたらしたものとは?

セルタはなぜ変わったのでしょうか?

というより、コウデは就任後のわずか2週間でどのようにチームを掌握し、何をもたらしたのでしょうか?

監督がコウデだったということは一つの大きな要因だっただろうと思います。

ガリシア人はどことなく懐古主義的な一面を持っており、過去の出来事や歴史、かつての実績に裏打ちされた何かに敬意を持つことが多い傾向があります。

2002−2003シーズンにセルタに在籍した金髪のアルゼンチン人MFエドゥアルド・ヘルマン・コウデはファンから人気のある選手でした。

独特のリズムを持つ右足のドリブルはヴァレリー・カルピンが去ったセルタの右サイドを任せるに値する技術だと期待が高まりましたし、実際に右サイドを圧倒し中央までカットインしながらゴール前まで迫るコウデのプレーは、バライードスの観衆から文句なしの支持を受けていました。

そのプレーを、当時アレビンからカデーテに上がったばかりのイアゴ・アスパスとウーゴ・マージョはボールボーイとしてピッチサイドで見ていました。

セルヒオ・アルバレスやデニス・スアレス、ブライス・メンデスとサンティ・ミナもバライードスのスタンドでコウデのプレーをその目で見ていました。

かつて目の前でプレーしていたセルタの選手が、監督として自分達の目の前に現れた。

25歳以上のカンテラーノにとって、コウデとはそういう存在なのです。

そんな「かつてのヒーロー」が、「お前はそんなもんじゃない」「もっとできることがある」「こうすればお前はもっと良くなる」「やれるし、やるんだ」と腹を割って話してくれる。真っ向から自分を評価していると言ってくれる。

これで自信が持てないプロ選手がいないわけがありません。

Movistar+が放送する番組El Día Despuésでかつてバレンシア、バルセローナでプレーしたジェラール・ロペスは「コウデの導入した4−1-3−2がセルタを生まれ変わらせたのだ」と分析していましたが、単にフォーメーションを変えるだけでチームが生まれ変わることなどそうそうありません。

コウデがセルタにもたらしたのは、選手個々の特徴を把握することによってそれぞれの選手と対話を繰り返し自信を取り戻させたということ。

「点を取れば勝てるんだ」と攻撃に対する意識を植え付け、その上で各選手の特徴を融合させる決まりごとやアイディアを共有したこと。

「攻めるためにはボールを奪う必要があるんだ」という意識を徹底させ、相手ボールに一番近い選手が必ず全力でプレスに行くような決まり事を作ったこと。

シンプルではありますが、この3つがコウデのもたらした変化だったと僕は考えています。

コウデ自身は、実力を示しファンから望まれ支持を得たものの、当時の監督ミゲル・アンヘル・ロティーナの戦術上は重用されず、選手としてセルタで大成することはありませんでした。

しかしファンは彼を忘れてはいませんでしたし、コウデもそうだったということを後に彼自身が語っています。

選手に対してポジティブな変化をもたらすいくつかの行動を行ったこと以上に、実はコウデがもたらしたものというのは広い意味でも狭い意味でも、セルタに関わる人間全てが持つべき「野心」とも呼べるものだったのかもしれません。

そしてそれは、2021年に入ってからのセルタを取り巻く様々な出来事から見ても恐らく間違いではなかったでしょう。

いい意味でも悪い意味でも、コウデがセルタにもたらしたものはセルタの将来を変えることになるのだろうと誰もが予感できるものでした。

続く

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