セルタとバレンシア、クラブ間ではすでに合意済み
長引いているマキシ・ゴメスの売却ですが、スペイン最大のスポーツ紙MARCA、ガリシアの有力地方紙La Voz de Galicia、そしてビーゴの地元紙FARO DE VIGOの報道によると、セルタとバレンシア両クラブ間ではすでに条件面での合意話されていると言われています。
セルタとバレンシアがクラブ間で合意した内容は、
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というものです。
僕自身も予測していましたしスペインの主要メディアも予測していましたが、やはりコパ・アメリカ2019でウルグアイが敗退し代表チームが解散になったこと、さらにマキシ・ゴメス本人がコパ・アメリカでの出場が一度も無かったことをきっかけにセルタとバレンシアの交渉が一気に進展したようです。
当初5000万ユーロ以下では売らない、と「売り手姿勢」を崩さなかったセルタが
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という条件でバレンシアと合意した背景には、コパ・アメリカでマキシ・ゴメスが出場機会を得られなかったこともありますが、恐らくはデニス・スアレスの獲得が6月30日までに実現できたことと、ウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスのウルグアイ出国とスペイン入国にメドが付いたことが影響していると僕は考えています。
デニス・スアレス獲得によりセルタの計画は1歩前進
セルタとしては現在保有する中盤の選手よりも戦力として計算でき実力的に確かなデニス・スアレスを獲得できたことで、MFエムレ・モルとピオネ・シストの売却に踏み切ることが可能になります。
エムレ・モルとピオネ・シストはそれぞれ600万ユーロ前後での売却が可能だと言われているため、満額かそれに近い金額でこの2名の移籍をまとめることができれば、マキシ・ゴメスを最大1600万ユーロの移籍金で売却することになったとしても、マキシ・ゴメスの前所属先であるデフェンソールに対する連帯育成金の支払いで発生する可能性のある赤字を最小限に留めることが可能になります。もしかしたらプラスマイナスで赤字は出ない可能性すらあります。
加えてガブリエル・フェルナンデスが紆余曲折あったにせよとりあえずのところはスペインへの入国が可能になったことから、FWの駒は最低限確保できた形になるわけです。
セルタは昔から前線でしっかりと核になれるセンターフォワードの獲得に苦しんできました(現在はどこのクラブも同様ではありますが)。20年前の一時的な黄金期にはヴラド・グデリからリュボ・ペネフへとセンターフォワードの系譜が辛うじて続きましたが、その後はいわゆる「9番」タイプの選手の獲得に苦しみ、南アフリカ代表FWベネディクト・マッカーシー、スペイン代表FWカターニャ、フランス代表FWフロリアン・モーリス、ユーゴスラヴィア代表FWサヴォ・ミロセヴィッチなどを獲得しましたが辛うじて仕事をしたと言えるのはカターニャのみです。
2004年の降格後にフェルナンド・バイアーノを獲得したものの、続けての降格で再び「9番」を失っているセルタは、それ以降典型的な「9番」タイプの選手とあまり縁がありません。
セルタが目指すのは「ティキ・タカもどき」?
一時的に強かった時代のセルタで中心的な役割を担っていたのはアレクサンデル・モストヴォイ、ヴァレリー・カルピン、クロード・マケレレ、グスタボ・ロペスという中盤を固める選手達でしたし、2000年代中盤以降はスペイン代表ですら9番タイプの選手を無理やり引っ張ってくるよりもアンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデス、ダビ・シルバ、セスク・ファブレガス達を中心にしたいわゆる「ティキ・タカ」スタイルを極限まで追求することで結果を出してきました。
純粋なセンターフォワードの育成や獲得がより難しくなっている現代においてセルタのような中堅クラブが生き残るためには、前線の「9番」に依存するよりも機動性と流動性に優れた中盤を構築することで相手のディフェンスラインを混乱させながらゴールを狙うスタイルのほうが理に適っていると言えるでしょう。
そう考えればマキシ・ゴメスを無理にチームに縛り付けておく必要はなく、むしろ動いてデニス・スアレスのパスコースを確保し、デニス・スアレスが思う存分能力を発揮できるようなタイプのFWを獲得したほうが安価で論理的なチーム構築が可能になるとも言えます。
上記の推測が正しいと仮定すれば、デニス・スアレスの獲得を「クラブ挙げての一大プロジェクトだ」と言い切ったセルタのスポーツディレクター、フェリペ・ミニャンブレスの発言は辻褄があうのです。
マキシ・ゴメスの移籍がこじれる原因は唯一つ。暗躍する代理人の存在。
反対にバレンシアの場合はすでに中盤の核ととしてダニ・パレーホが君臨しており、パレーホを支える執事のような存在でカルロス・ソレールが傍に控えています。後方にはすでにセルタから移籍しているダニエル・ヴァスがおり、パスの出し手には困りません。
バレンシアとしてはロドリゴ・モレーノと肩を並べられる実力のあるセンターフォワードが必要で、セルタとしてはセンターフォワードに頼らないチーム作りのためにセルタのプレースタイルを理解しているカンテラ出身者のミナやデニス・スアレスが必要、というまさに利害が一致した交渉であるはずです。
それがなぜなかなか決まらないのか、という疑問には1つの答えがあります。
代理人企業「ステラーグループ」の存在
それがマキシ・ゴメスの代理人を務める「ステラーグループ」の存在です。
ステラーグループはイングランドのロンドンに本社を置くスポーツコンサルティング企業で、1994年に創業して以来様々なスポーツ選手との代理人契約を通じて成長してきました。
サッカー、陸上、ラグビー、クリケットなどの種目をプレーする選手との代理人契約を看板としていますが、ことスペインでプレーする選手に関わる代理人業においては近年所属クラブと問題を起こすことが増えています。
セルタでもダニエル・ヴァスがステラーグループを代理人としてバレンシアへの移籍交渉を行いましたが、セルタ側の思惑とは全く合わない交渉をステラーグループが進め、ほぼ喧嘩別れのような形で退団。
レアル・マドリーのウェールズ代表FWギャレス・ベイルがここ最近おかしな態度でクラブ内外から顰蹙を買っている原因を作っているのも、ステラーグループの思惑と指示によるものだと噂されています。
そしてマキシ・ゴメスの現在の代理人もステラー・グループであり、これがバレンシアとの交渉がなかなかまとまらない大きな原因である、というのがMARCAの見方です。
ステラーグループがイングランドに本社を置く関係で彼らはプレミアリーグのクラブとも当然関係が深く、ステラーグループの仲介によってウェスト・ハムがセルタに対してマキシ・ゴメス獲得のオファーを出したと見るのが自然でしょう。
ウェスト・ハムが以前3200万ユーロでマキシ・ゴメス獲得のオファーを出したのは以前の記事「【セルタ】ウェスト・ハムがマキシ・ゴメスへ3,200万ユーロを提示も拒否」でお伝えした通りです。
しかしここに来てウェスト・ハムは再度4300万ユーロの再オファーをしたとも言われており、この横やりによってマキシ・ゴメスとステラーグループの間でもせめぎ合いが起きているというのがスペインメディアの見方になっています。
代理人は「ビジネス」として何を求めているのか。
実際にはもっと複雑な仕組みになっていますが、ものすごくざっくり簡潔に説明すると、「代理人」の儲けというのは選手のコンサルティング料金に加えて、契約した選手が移籍する際に支払われる移籍金からコミッション=手数料を受け取ることで発生します。
支払われる移籍金が高額であればあるほど、コミッションのパーセンテージが低かったとしても実際の金額は数億円に上ることもあり、そのため近年のサッカー選手が移籍する際に新規所属先クラブと結ぶ契約に明記される移籍金の額は年々高騰する傾向にあるのです。
マキシ・ゴメスの場合で言えば、マキシ・ゴメス本人はバレンシアでプレーすることを第一希望にしていますが、最大1600万ユーロの移籍金の数%〜数十%となるコミッションよりも、4300万ユーロもしくは満額5000万ユーロの移籍金からコミッションを取れたほうが、ステラーグループという企業にとっては「いい取引」であることは間違いありません。
ステラーグループとしては少しでも高い移籍金を払わせてマキシ・ゴメスを獲得させ、その移籍金額に対するコミッションを請求したほうが「彼らの」ためになるということなのです。
恐らくそこにマキシ・ゴメス本人の希望はさほど反映されないはずで、しかもマキシ・ゴメスはまだ22歳の若者です。
南米在住7年の経験上、お世辞にも「教育水準が高いとは言えない南米」の22歳の若者、しかもこれまでサッカーのみに打ち込んで人生を切り開いてきた若者が、こういった「大人のビジネス理論」を理解して話ができているとは到底思えません。
個人的な推測の域を出ませんが、ステラーグループのスーツで身を固めた英国紳士然とした海千山千をくぐり抜けているビジネスマン達が、必死になってあの手この手でマキシ・ゴメスを説得し態度を保留させて取引を有利に進めようとしている最中なのだろうというのが僕の推測です。
恐らく見方によってはこうした代理人ビジネスのあり方に疑問を呈する向きもあるでしょうが、とはいえこれもサッカーという巨大なグローバルマーケットを舞台にした「ビジネス」の一端であることも事実です。
例えばアップルが少ない製品群しか持たないにも関わらず、卓越したデザインを生み出し、そのデザインと自社製品を組み合わせることによって発生させたエコシステムに顧客を取り込むことによって時価総額世界1位の企業になったように、サッカーもまたトップレベルの選手たち数100人という少ない「商品」を代理人が回すというエコシステムを持っています。
これが良いのか悪いのかという議論は、恐らくあまり意味を成すことはないでしょう。
すでに出来上がった仕組みの中で選手もクラブも代理人も動いているわけで、それにより莫大な利益を得ている登場人物が山程存在します。
願わくばウルグアイの若い22歳の青年が、自らの臨む形でサッカーに打ち込めればいいと願わずにはいられませんが、果たして周りがそれを許すのかどうか。
様々な側面からこの移籍に関する動きは注目する価値がありそうです。