マキシ・ゴメスはウルグアイからバレンシアへ
紆余曲折の末にセルタからバレンシアへの移籍が決まったウルグアイ代表FWマキシ・ゴメスは、コパ・アメリカ2019を終えてから故郷ウルグアイに里帰りしオフシーズンを過ごしていました。
現地時間7月10日のFARO DE VIGOによる報道では、同日中にウルグアイの首都モンテビデオ発の飛行機に乗り、スペインの首都マドリーを経由してそのままバレンシアに入り次第バレンシアのパテルナ練習場へ合流。メディカルチェックを受けた後に契約書にサインを行うとのことです。
故郷で釣りに熱中するあまり、正式な契約書を作成するための重要書類を準備するのが遅れたという南米人らしいポカをやらかしたマキシ・ゴメスですが、晴れて本人の希望通りバレンシア入りが実現することになります。
7月9日の記事「【セルタ】マキシ・ゴメスはバレンシア移籍で決着へ。」でもお伝えした通り、マキシ・ゴメスとバレンシアとの契約は2024年までの5年間。
2019−2020シーズンのチャンピオンズリーグに出場するバレンシアで、マキシ・ゴメスは初めて欧州カップ戦の舞台に立つことが濃厚となっています。
うっすら見えてくるマルセリーノの狙い
僕はあくまでもセルタ・デ・ビーゴのファンであり、バレンシアのファンではないため正確なことは的確に把握できていないと思いますが、少なくとも2018−2019シーズンに見たいくつかのバレンシアの試合から考えられるマルセリーノ・ガルシア・トラル監督の狙い、つまりマキシ・ゴメス獲得の意図は以下のようなものではないかと考えています。
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スペイン代表FWロドリゴ・モレーノに移籍の噂が絶えない以上、ロドリゴを完全な主軸として考えるのはリスクがあります。
また、2018−2019シーズンの準決勝でバルセローナがリヴァプールに逆転負けを喫した際に南米ESPNの実況が何度も指摘していたように、近年のスペイン各クラブが欧州の舞台で以前のような圧倒的なボール保持率を保つことが難しくなっていることは事実です。
ヨーロッパ各国の上位チームが出場するチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグで、特にノックアウトラウンドに進んだ際には楽に試合を運べる相手は基本的に存在しません。
例えばバレンシアが相手チームのスカウティングスタッフを抱えて研究しているように、対戦国の各クラブにも同様のスタッフがおり、彼らは日々バレンシアの戦術を研究し、その穴を探し続けることになるでしょう。
「ティキ・タカ」と呼ばれる細かいショートパスをダイレクトで回し続けながらボールを保持し、ゴールへの道筋を90分通じて探し続けることができるだけの時間的余裕を相手が与えなくなってきたことは、2014年ワールドカップでのスペイン代表の惨敗。そしてここ数年「ティキ・タカ」の代名詞ともなっていたバルサがチャンピオンズリーグを勝ち取れていないことからも明らかです。
となると、バルサやレアル・マドリーほどの圧倒的なタレントを保持しているわけではないバレンシアが欧州の舞台で競合相手に勝とうとした場合、「ティキ・タカ」スタイル以外の何かを武器として持っておく必要が出てきます。
もともと中盤の駒は揃っているバレンシアですから、ゲームを組み立てる能力に疑いはないでしょう。
あとは「どうやって点を取るか」というその一点が問題になるはずで、例えば試合終盤に身長の高いセンターバックの誰かをただ前に上げるなどという考古学的なサッカーを展開するよりは、そもそも前線で起点になれる能力を持ったセンターフォワードタイプの選手が1人いたほうが効果的なのは間違いないことだと僕は考えています。
戦術の研究者としても有能なマルセリーノは、恐らくここ数年「ティキ・タカ」スタイルが以前ほど効果的な展開を生んでいない事実に気づいており、クラブ首脳陣との相談の上でターゲットとして有効なプレーができるマキシ・ゴメスの獲得をクラブとして狙ったのだろうと僕は考えます。
マキシ・ゴメスとしても、もし本当に上記のことがバレンシアとしての狙いであるならば願ってもいない状況だと言えるでしょう。
コパ・アメリカ2019では結局エディンソン・カバーニとルイス・スアレスの牙城を崩せずに、1分たりとも出場機会を得ることができませんでした。
カバーニもスアレスもポストプレーからの展開を生む力に長けた選手で、彼らがその能力に磨きをかけることができたのも欧州カップ戦にコンスタントに出場する機会を得られたからであることは疑いの余地がありません。
新シーズンにマキシ・ゴメスがどのような形でバレンシアの戦術に組み込まれていくのか。
正式契約後に合流するチームの中で、マキシ・ゴメスもマルセリーノもチームとしての答えを見つけていくことになるのでしょう。
サンティ・ミナが合流する「自宅」ではすでにトレーニングが始動。
一方のサンティ・ミナは、セルタとバレンシアの合意が有効になりマキシ・ゴメスの移籍が決定したことで、すでにパテルナ練習場に合流し実施されるはずだった7月10日の練習参加を取り止めています。
私物の整理とチームメイトとクラブスタッフへの挨拶を済ませた後、ミナはそのまま生まれ故郷であるビーゴに向かい、再びセルタへ合流してメディカルチェックを受ける予定になっているとのこと。
7月12日か13日には5年ぶりにア・マドローア練習場でミナがセルタのトレーニングシャツを身にまとう姿が見られることでしょう。
セルタは数人の代表選手を除くトップチーム登録選手17人と、9人のセルタBの選手を合わせた26人でプレシーズンのトレーニングを開始。7月8日に改めて始動したチームにはデニス・スアレス、そしてひき逃げ事故を起こし出国停止処分を裁判所から受けていたウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスも初日から練習に参加しています。
数日以内にはここへサンティ・ミナが「戻ってくる」ことになり、ウーゴ・マージョ、イアゴ・アスパス、セルヒオ・アルバレス、ルベン・ブランコなどにとってはさながら同窓会のような雰囲気の練習になるでしょう。
また、マキシ・ゴメスを巡る協奏曲に隠れてガーナ代表DFジョセフ・アイドゥーの獲得がひっそりと決定しており、アイドゥーはアフリカ・カップ・オブ・ネーションズが終了次第、ビーゴで契約書にサインを済ませてア・マドローア練習場へ合流する予定になっています。
冷静に見てみると新シーズンのセルタはエドゥアルド・ベリッソ退任後、最も充実した準備が行えていると言えるでしょう。新シーズン開幕時点で監督は決まっており、核となるべき選手の獲得はすでに終わっています。
フラン・エスクリバ監督としては7月中旬以降に始まるプレシーズンマッチ、開幕直前に行われる伝統のメモリアル・キノーチョに向けてじっくりと選手を見ることができ、状況に応じてシーズンを戦っていく戦略を練ることができるはずです。
そして、練ってもらわなくては困るというのがセルタのクラブ首脳陣の切実な願いであり、それはファンとしても同様です。
20年もセルタを見ていると、優勝だとか欧州カップがどうだとかいうことはすでにどうでもよくなっていて、とにかくまず最初に僕が思うのは「降格さえしなければあとはなんでもいい」ということです。
1998−1999シーズンから5年間、ごくごく短い間だけ常連的に出場を果たしていたUEFAカップですが、実際にはこのUEFAカップへの出場と、それに続くチャンピオンズリーグへの出場そのものがその後の経営的停滞と莫大な累積赤字に繋がっていたことがカルロス・モウリーニョ会長就任以降の13年間で白日のもとに晒されました。
繰り返し言いますが、セルタはただの地方クラブその他大勢の中の1つでしかなく、リーグ優勝だとか欧州カップ戦での優勝だとか、そういうものとは一切縁がないクラブです。
そして、僕自身もう二度とセルタが欧州カップ戦に出場することがなくても、別にそれで構わないと思っています。
出場することで一時的なボーナスを得て、そのボーナスを使って自転車操業的なクラブ経営を続けていくぐらいなら、10位や13位あたりを毎年ウロウロしていてもいいから足りない選手を身の丈に合ったレベルで獲得し、継続的にプリメーラに残留してクラブを存続させていくことのほうが何億倍も価値のあることだと僕は考えています。
なんとかルーニャとかいうよくわからない町の、ほにゃららティーボなんとかという意味不明な名前のクラブがガリシアで唯一優勝経験があることは確かに気に入りませんが、どうやらプリメーラにはいないようなのでどうでもいいです。
それはともかく、他人のことは気にせず今シーズンはまず残留。
カンテラ出身組が中心となった手堅いチームになって、とりあえず安心できる結果を出してくれればそれでいい、というのが僕個人の考えです。
8月18日に始まるラ・リーガ2019−2020シーズン。
今シーズン最大の目標であるプリメーラ残留に向けて、セルタ・デ・ビーゴはいつもどおり静かにスタートを切りました。