【セルタ】2020年のセルタ・デ・ビーゴを振り返る

La Liga情報

2020年はコロナに始まり、コロナで終わる1年になりました。

世界中がコロナに翻弄され、ありとあらゆる分野がコロナに影響を受けて様々な変化を強いられることになった年でした。

ラ・リーガ・サンタンデールも例外なくコロナの影響を受け、3月8日に行われた第27節から6月11日まで中断。

ある意味で歴史上最も長いシーズンを送ることになりました。

そんな中、セルタ・で・ビーゴは2018−2019シーズンに引き続き降格争いを続けることになった1年でした。

この機会に2020年のセルタを振り返ってみます。

2019−2020シーズンのセルタ

2019−2020シーズン開幕前に「Operación Retorno=帰還事業」と名付けられたカンテラーノ復帰プロジェクトがほぼ満点に近い状態で成し遂げられ、ファンの期待を一身に受けて開幕を迎えたセルタ。

第1節(ホーム):レアル・マドリー

第2節(ホーム):バレンシア

第3節(アウェー):セビージャ

という開幕のハードスケジュールを1勝1分1敗で乗り切ったことから、「今年はいける」と手応えを感じていたものの、第4節から第18節までの間で2勝4分8敗という最悪の前半戦を送ることになりました。

その間19年11月にはフラン・エスクリバを解任し、オスカル・ガルシア・ジュンジェンが新監督に就任。

オスカルが監督に就任して以降は2020年に入って3月8日のリーグ中断決定まで2勝6分1敗とまずまずの成績を上げるまでに回復しかけていました。

特に中断直前の3月7日に行われた、バライードスでのレガネス戦では10人になりながらイアゴ・アスパスによる1点を守りきって勝利。

90分に渡って前線から最終ラインまでをカバーし続けたラフィーニャが見せた魂の輝きを見て、セルタファン全員が「このチーム、この勢いなら残留できる」と確信した結果でした。

新型コロナの全世界的な感染拡大によってサッカー界どころか世界が止まり、リーグ戦の行く末も不透明となってしまったのがその後の展開を暗示していたようにも思えます。

結局、最終節まで残留を争うことになったセルタはオスカルと契約を延長しましたが、現地ファンの間ではリーグ戦再開後の采配、特に格上と思われる相手に対する3バックや5バックなどに象徴される消極的とも思える戦術システムの採用には賛否両論を巻き起こすことになりました。

契約延長に反対するファンと賛成のファンによる論争すら巻き起こる始末。

今から思えばこの時点で20−21シーズンの開幕に向けた不安は首をもたげていたのかもしれません。

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シーズンオフのセルタ

19−20シーズン途中から、セルタに足りないものが何なのかはファン全員が理解していました。

9番タイプ=センターフォワードの獲得

が必須だと誰もがわかっている中で迎えたオフシーズン。

ファンの誰もが求めていたのはラフィーニャ、スモロフという後半戦の軸が去った前線を強化できる存在した。

グラナダからアルバロ・バディージョを獲得し、サイドを強化した上でアスパスを中央に据えた形を突き詰めていくのかと思いきや、バディージョは1試合も出ることなくレンタルで放出。

ムリージョもあわやバレンシアに移籍という事態でした。

結局はバレンシアの内情に助けられ最終的に守備の要になっていたムリージョはなんとか確保(買取オプション付きレンタル)したものの、結局サラリーキャップの影響で前線は誰も獲得できなかったに等しい、実質的な戦力ダウンの中で開幕を迎えることになったのでした。

2020−2021シーズン前半のセルタ

ラフィーニャとスモロフが去ったとはいえ、シーズンを通じて調子が上がらずじまいだったサンティ・ミナ、チームがグダグダでもコンスタントに10ゴールをあげてくれるイアゴ・アスパス、復帰早々に結果を出してくれたノリートがいる以上は何とかなるのではないかという期待とともに始まった20−21シーズンでしたが・・・。

勝てないチーム

開幕の3試合を1勝2分と悪くない結果でスタートしたセルタでしたが、第4節から第9節まで3分5敗

セルタは全く勝てなくなりました。

勝てないだけでなく、6試合で3ゴール。

絶望的な得点力不足に陥ったのでした。

ウーゴ・マージョのキャプテン剥奪

そんなチーム状況の中、オスカルは不動のキャプテンであるウーゴ・マージョからキャプテンを剥奪。

負傷があったとはいえカンテラからセルヒオ・カレイラを招集してスタメンで起用するという強硬策を取ります。

ファンの間では将来の右サイドバックレギュラー候補として以前から期待を一身に受けていたカレイラですが、このタイミングでウーゴ・マージョに代わるのかという点に関しては驚きが満ちていたのが実情です。

ここ2シーズンのウーゴ・マージョは確かにパフォーマンスが落ちているように見えましたし、以前ほどのクロスの質はなくなり、フィジカル・コンディションも落ちているように思えていました。

そんな中ではキャプテン剥奪はともかく、スタメン落ちは致し方なしと僕は思っていたのですが・・・。

オスカルの解任

やりたいことはわかる。

でも勝てない。

しかも点も取れない。

チーム内でも不協和音じみた声が聞こえてきそうな気配がそこはかとなく漂い始めた時、クラブ上層部が取った決断は、

家族を優先する

ということでした。

セルタ・デ・ビーゴというクラブ、そしてビーゴという町にとって「地元出身者かつ下部組織出身」の選手は特別な意味を持ちます。

ガリシア州というコミュニティの中において、最大都市であるビーゴを代表するセルタ・デ・ビーゴが他のクラブと一線を画すのは「ガリシア人の下部組織出身者=ガリシア人カンテラーノ」を重視するということです。

しかもセルタのカンテラーノは代々ビーゴ、あるいはビーゴ都市圏出身者が多いのが特徴でした。

良くも悪くもビーゴ出身のカンテラーノはアンタッチャブルと言ってもいい存在であり、そこに革命は求められていなかったのです。

その意味で、結果も相まってオスカルが解任されてしまったのは致し方のない流れだったと言わざるを得ないのかもしれません。

ただし、オスカルが考えていたこと、やろうとしていたサッカーは僕にとっては共感できるものでした。

いつかまたオスカルがセルタに来ることがあるとしたら、その時は別の状況であってほしいと思います。

エドゥアルド・コウデの就任

2020年11月12日。

セルタはアルゼンチン人監督、エドゥアルド・ヘルマン・”チャチョ”・コウデの就任を発表しました。

選手・コウデの経歴

選手としてのエドゥアルド・コウデは2002−2003シーズン開幕前にアルゼンチンのりーベル・プレートから加入。

ヴァレリー・カルピンが抜けた右サイドを担う最有力候補として期待された存在でした。

プレシーズンマッチから効果的な動きを見せていたコウデの評価はファンの間で非常に高く、今度こそチャンピオンズリーグ出場権を取る、と意気込んでいたセルタファンはコウデに大きな期待を寄せたのです。

このシーズン、4年間指揮を採りセルタをUEFAカップの常連にまで成長させたビクトル・フェルナンデスの後任として就任していたのは、15年後にJリーグへやってくることになるミゲル・アンヘル・ロティーナでした

オサスーナで見せた堅実なチーム作りが評価されての就任でしたが、これがコウデにとっては不運なものでもあったのです。

ロティーナが重視したのは「安定」。

仕掛けるタイプだったコウデの前に出ていくプレースタイルはロティーナが望むプレーではありませんでした。

最終的に選ばれた右サイドの選手はアンヘルであり、へスーリであり、エドゥーでした。

それでも出場した試合では効果的なプレーを何度も見せていたコウデをファンは支持していたのですが、最終的に冬のマーケットでリーベルにレンタルで帰還。シーズン終了後に完全移籍でアルゼンチンに戻ることになりました。

ちなみにこの頃のバライードスでボールボーイをしていたのが、当時のセルタカンテラでプレーし、2020年現在「セルタの王」「モアーニャの魔術師」の異名で呼ばれるイアゴ・アスパスでした。

監督・コウデの経歴

2011年にアメリカで引退したコウデはアルゼンチンに戻り指導者ライセンスを取得。

2015年から自身もプレーした名門ロサリオ・セントラルで監督としてのキャリアをスタートします。

2017年にメキシコのティフアナで指揮を採ったあとアルゼンチンに戻り、またしても名門ラシン・クルブ・デ・アベジャネーダの監督に就任すると、2019年にはスーペルリーガ・アルヘンティーナで優勝を飾ります。

この時に中盤の底でキープレーヤーとして君臨したのが元セルタのチリ代表MFマルセロ・ディアスでした。

その後コウデはブラジルに渡り、インテルナシオナウの監督としてコパ・リベルタドーレスを戦っていました。

コウデ就任後のセルタ

コウデの就任に関しては期待と不安が半々というのが実情でした。

ラシンで優勝、インテルナシオナウでの状況を見る限りは確かな実力を持った監督になっていることは想像できたものの、なんと言ってもヨーロッパでの監督経験がありません。

2018−2019シーズン、鳴り物入りでセルタの監督に就任し結果的に解任されたアントニオ・モハメドはヨーロッパでの監督経験はこれまでのものとは全く違っていたと漏らしています。

現地ビーゴのファン達の間でも「同じ轍を踏むのではないか」という不安が少なからずあったのが現実でした。

就任後初戦のセビージャ戦は敗北。しかし・・・

UEFAへの監督登録が間に合わず、就任後の初戦となったラモン・サンチェス・ピスフアンでのセビージャ戦。

トレードマークとも言われる「4−1−3−2」フォーメーションを初めて披露したセルタは最終的に4−2で敗北します。

しかしこの試合を通じてセルタはこれまでと全く違う姿を見せ始めます。

レナト・タピアを中盤の底に1人で配置し、タピアの前にデニス・スアレス、ノリート、ブライス・メンデスを並べ、前線に貼るイアゴ・アスパスとサンティ・ミナをサポートする。

センターフォワードがいないのならいないなりの戦い方があるとでも言わんばかりのプレー内容にセルタファン達は驚かされることになります。

4連勝

コウデ就任後の第10節から年内最終戦となった第16節までの7試合でセルタは5勝1分1敗

しかも第11節から第14節までグラナダ、アトレティック、カディス、アラベスを相手になんと3年ぶりの4連勝を飾ります。

コウデ就任後のセルタは7試合で16得点7失点。

マイナスだった得失点差は全体で22得点22失点と帳消しになりました。

さらに第9節の時点で最下位だった順位は第16節終了時点で8位まで上昇。

たった1ヶ月でセルタが見る風景は全く別の世界に変わってしまったのです。

劇的に改善されたコウデのセルタ

オスカルのセルタとコウデのセルタ。

この2つのチームでは何が違うのでしょうか。

守備システムの変更

オスカルの守備はどちらかといえば守備陣が各自担当するエリアを持ち、そこに入ってくる相手選手をケアするタイプの守備でした。

コウデの守備スタイルはいわゆるマンツーマン守備。マーカーは担当相手に付いていき、守備していくスタイルです。

特筆すべきは、記者会見で本人が発言していたように「ボールを失った選手が最初のディフェンダーとしてプレーする」というスタイルです。

このスタイルによって瞬間的な数的有利を作れる局面が増加し、ボール奪取の位置が上がり、ボール奪取までにかかる時間が劇的に削減されました

攻撃システムの改善

コウデが採用する4−1−3−2は守備面でも効果を発揮しますが、攻撃面で劇的な変化をもたらしました。

瞬間的に姿を変える百面相のようなシステムだというのが僕個人の印象です。

レナト・タピアが最終ラインまで下がってビルドアップに参加すると同時に中盤でのボールロストに備えつつ、中盤のゲームメイクは下がってきたデニス・スアレスに任せる。

デニスは後ろにタピアがいることで積極的に前を向けるようになり、デニスが前を向けること、タピアが最終ラインに吸収される位置取りをしていることから左サイドのルーカス・オラサと右サイドのウーゴ・マージョがこれまでよりも積極的に攻撃参加できるようになりました。

最も効果があったのは右サイドで、コウデによってキャプテンというアイデンティティーを取り戻し、走れば前を向けているデニスから求める通りのパスが出てくるようになったことから、クロスの質が復活し、ディフェンス面での強度があがり、攻守での貢献度が格段に上がったのです。

現有戦力の有効活用

当たり前ですが前半戦途中での監督交代であることから新加入選手はいません。

コウデがもたらした変化は全て現有戦力を使って成し遂げたものです。

なおかつそれぞれの選手の役割は変わっていません。

できないことをやらせるのではなく、できることをこれまで以上に、最大限以上を目指してやる

やっていることは意外にシンプルなのです。

それでいて今いる選手達の特徴がかつてないほど活かされている。

前を向いたデニスがゲームを組み立てられるようになり、アスパスは最前線のスペースが空いたことからより自由に動けるようになり、ミナはアスパス用のスペースを気にせずに自分のペースでプレーできるようになった。

アスパスが9ゴール6アシストと完全に波に乗っている今、残すはミナが爆発することだけです。

2021年のセルタを待っているのは何か?

コウデの就任によって劇的に改善されたセルタのプレーですが、問題が全て解決したわけではありません。

センターフォワードとして9番役をこなしているミナの重要度は上がっていて、ゴールは少ないものの求められている役割をしっかりこなしてはいますがもっと本格派の9番が必要とされていることに変わりはありません。

負傷を繰り返しリーグ戦に全く出場できないダビ・ジュンカに代わり、ルーカス・オラサのバックアップとしても計算できる左サイドの選手も必要です。

冬の移籍市場

サラリーキャップを空けない限り、新規加入選手の獲得は相当に制限された条件下で行わなければなりません。

そのためには出場機会を失い、コウデのスタイルから外れたダビ・コスタスとホルヘ・サエンスの去就が鍵になるのは間違いありません。

すでにこの2名に関してはクラブとしても放出先を探しているのが周知の事実となっており、動きが気になるところです。

後半戦での消耗度

数は揃っていますが、選手層が厚いわけではない現在のセルタは恐らく後半戦で披露との戦いも余儀なくされるでしょう。

リーグ戦が佳境に入れば各チームのあたりは激しくなり、怪我も出てくるでしょう。

前半戦よりも消耗度が上がる後半戦にどこまで耐えられるか。

チームの心臓であり鍵でもあるレナト・タピアが負傷なくプレーを続けることができるか。

運頼みで終わらせるわけにはいかない現実が目の前に転がっているのは事実です。

そもそもリーグ戦は消化できるのか?コロナ禍の見通し

2020年後半に入り、新型コロナウイルスも変異株が発見されています。

ヨーロッパでは感染の広がりも早く、しかも冬の寒さと激しい乾燥によって普段からウイルスの感染リスクは上がります。

ガリシア州のあるスペイン北部の場合は中部カスティージャ・イ・レオンや南部アンダルシア、バレンシアなどと比べて湿気も気温も高めなので感染がどこまで広がるのかは様子見ですが、全体としてみれば今後さらに感染が拡大する可能性は高いでしょう。

その場合にリーグ戦が中断なしで行えるのかどうかも気になるところです。

「勇気とやる気」、そしてプラスアルファでどこまで行けるか?

セルタの標語は

AFOUTEZA e CORAZÓN

「AFOUTEZA=アフォウテッサ」とはスペイン語の「Valentia=勇気」にあたるガリシア語です。

「CORAZÓN」は直訳すると「魂」や「心臓」、「ハート」という意味にするのが普通ですが、この場合は「勇気とやる気」とでも訳すのが適当でしょう。

2018−2019シーズンからの2年間、セルタはまさにこの「AFOUTEZA」と「CORAZÓN」だけで戦ってきたようなものでした。

どちらが欠けていても残留は難しかったでしょう。

しかし今はコウデのもとで戦術・戦略的な力がプラスされています。

今のセルタがこの「AFOUTEZA」と「CORAZÓN」に加えて得られたプラスアルファでどこまでやれるか、どこまで行けるか。

今シーズンは過去2年よりも違う風景を見ることができるのではないかと期待しながら、僕は2020年を終えようと思います。

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