2020年11月28日、セルタ・デ・ビーゴは新練習場シダーデ・デポルティーバ・アフォウテッサの竣工式を行いました。
1990年から30年の間、セルタはビーゴ市内北東部にあるア・マドローアでトップチームとカンテラの全体練習を行ってきました。
ア・マドローアはビーゴ市の所有物である市営スポーツ施設を、セルタ・デ・ビーゴが借りて使用しているに過ぎなかった施設。
それに対してソシオ(株主)、そしてアボナード(年間チケット購入者)とファンの投票によって名称が決まった新練習場「アフォウテッサ」は、セルタ・デ・ビーゴがクラブとして所有・管理する初めての練習施設です。
シダーデ・デポルティーバ・アフォウテッサとは?
2019年11月30日に建設が始まったアフォウテッサは、ビーゴ市東部に位置する空の玄関口ペイナドール空港から東に20分ほどの場所にあるモス市にあります。
なぜセルタ・デ・「ビーゴ」という名前のビーゴ市のクラブが、ビーゴ市内に練習場を建設しなかったのでしょうか?
ビーゴ市内では建設予定の面積を確保できなかったこと、ビーゴ市との折衝で必要面積の提供を受けられなかったこと、建設許可を得ようとセルタが動いている段階でビーゴ市からの協力が得られなかったことから、セルタは周辺の市町村に建設許可の打診を行うことになったのでした。
その中で建設地として決定したのがモスでした。
モスは「コマルカ・デ・ビーゴ」の一部
スペインでは「コマルカ」と呼ばれる都市圏が設定されています。
コマルカは「町と自治州の中間」のような都市圏単位の呼び名。
モスはオ・ポリーニョ、バイヨーナ、フォルネーロス・デ・モンテス、ゴンドマール、ニグラン、パソス・デ・ボルベン、レドンデーラ、ソウトマイヨール、サルセーダ・デ・カセーラスなどの都市と共にビーゴ周辺に位置しており、これらの都市と「コマルカ・デ・ビーゴ」という「ビーゴ都市圏」を形成する1自治体です。
現在セルタのトップチームでプレーする主力の中では、ブライス・メンデスがモス出身。
モスの人口は2012年の時点で約15,000人でした。
これといって大きな産業を持たないモスは、西をビーゴと隣接していることもあり、経済的にはビーゴと密接な関係性を持っています。
アフォウテッサの誘致はモスにとって大イベント
決して好景気とは言えない近年のスペインにおいて、大都市以外の町では経済的な柱が少ないために年代を問わず失業率の上昇が問題になっています。
セルタが公にしていた計画では、新練習場にはレストラン、カフェテリーア、オフィシャルショップが常設され、周辺にはショッピングセンターが誘致されるという内容でした。
これは、建設されるセルタの新練習場周辺に小さくない雇用が創出されることを意味していました。
強い地場産業を持たず、ビーゴの経済に半ば依存するような形のモスにとってこれは渡りに船だったはずです。
良くも悪くもモスの町は大騒ぎになり、一時期はセルタの誘致賛成派と反対派が激しく争う事態にまで発展したのです。
最終的にモスはセルタが練習場を建設することを承認。
2019年11月30日に建設が開始されたのでした。
竣工式にはガリシア州知事も出席。一方・・・
「AFOUTEZA(アフォウテッサ)=勇気」と名付けられた新練習場のお披露目となる竣工式が2020年11月28日に開催。
竣工式には、セルタ会長カルロス・モウリーニョと王立スペインサッカー連盟会長ルイス・ルビアレス、モス市長ニディア・アレーバロの他、
ガリシア州知事アルベルト・ヌニェス・フェイホー
という大物が出席。
一方でセルタがプレーするビーゴ市の市長アベル・カバジェーロは招かれませんでした。
バライードスの改修工事とア・マドローアに代わる新練習場の建設にあたり、長年に渡って論争を繰り広げてきたセルタ(モウリーニョ会長)とカバジェーロ市長。
2019年にモスで練習場を建設し、将来的にはクラブ自前のスタジアムをモスに建設する可能性すらあり得ると発言したモウリーニョに対し、カバジェーロが「セルタはビーゴのクラブであり、誰かの個人的意思で存在を左右されることがあってはならない」と発言するなど、不穏な関係性は周知の事実でした。
竣工式にビーゴ市長が招かれなかったという事実は、モウリーニョとカバジェーロの関係性が破綻していることを表してもいるのですが、一方でガリシア州知事であるアルベルト・フェイホーが招かれた上、フェイホー側も招待を受け入れているという点でガリシアの地元メディアは注目していたのです。
州知事が出席し来賓としてコメントする以上、いくら州内の最大都市、最大の漁港、最大産業を持つビーゴの市長とは言え、州知事のコメントを腐すような発言はできません。
新しい施設の竣工式というこれ以上ないタイミングを逃してしまえば、後から何を言っても「なぜあの時言わなかった?」と周囲からは疑問を呈されてしまいます。
実業家が政治力で政治家に勝利した
これまでの僕のブログで紹介したように、カルロス・モウリーニョは実業家です。
自身が大株主兼実質オーナーであるGES社(ガソリンスタンドチェーン)の他、いくつかの投資系起業とバーガーキングやベネデッティ・ピザなどの相談役も務める筋金入りのビジネスマンであるのがモウリーニョ。
セルタ会長としての就任当初はあまりにも実利主義的な施策が目立ち、ドラスティックな改革と相反する理想論のギャップにファンは戸惑いを隠せず、その戸惑いが恐れと怒りに変わって大きな批判と非難、そして拒絶反応を巻き起こしました。
しかし14年目を迎えた現在、そのようなネガティブな反応はほぼ払拭されています。
セルタファンのみならず、ビーゴ市民全体からもモウリーニョは評価されるようになり、モスへの練習場建設が決定した際にはビーゴ市民からカバジェーロに対する批判が沸き起こるまでになりました。
そしてトドメとも言えるのが今回の竣工式です。
- ビーゴ市長は呼ばない。
- ガリシア州知事を呼ぶ。
- そして州知事から来賓スピーチを引き出す。
力ずくで市長が一言も言えない状況を直接の舌戦を一切行わずに生み出してしまったモウリーニョのこの手腕を見て、現地ビーゴのセルタファン達は驚愕しました。
それだけはありません。
ガリシア州知事が「セルタの練習場竣工式でスピーチする」というこの事実は、現時点においてガリシアを代表するサッカークラブがセルタ・デ・ビーゴであるというお墨付きを得ることにも繋がります。
ガリシア州知事がモス市の敷地内で、市内に建設された施設への祝辞を述べるということは、ガリシア州がモス市を祝福し讃えたということを意味します。
この大きな動きを作り出したのはセルタ・デ・ビーゴです。
セルタ・デ・ビーゴは今後よほどのことがない限り、モス市に雇用を生み出し続けます。
州知事を招き、祝辞を述べさせモスの名前をガリシア州全体に改めて知らしめた存在としてモス市を拠点とした活動を続けていくのです。
しかも現在のセルタでスタメンとしてプレーしファンからの信頼と期待の大きな若いブライス・メンデスが、モス出身者として大きな存在になろうとしている。
新練習場アフォウテッサの竣工は、ただ自前の練習施設をセルタがついに手に入れたということだけを意味するのではありません。
セルタ・デ・ビーゴというクラブとカルロス・モウリーニョが、ビーゴ市長アベル・カバジェーロに政治で勝利したということも同時に意味する重大なイベントになったのです。
カルロス・モウリーニョと来賓は、竣工式で何を語ったのか?
次回の記事ではカルロス・モウリーニョ会長と来賓がどのようなスピーチを行ったのか?
それぞれの発言を紐解いていきたいと思います。