様々な意味でサラゴサにおける「歴史」を刻み始めた香川真司
サラゴサの日本代表MF香川真司は開幕戦からファンの心を掴みつつありますが、どうやら他の視点でも「歴史的な」選手として歩み始めているようです。
スペイン最大のスポーツ紙MARCAは現地時間8月26日の記事で「香川がサラゴサの歴史を作り始める」と題して香川について評しています。
サラゴサの歴史上2人目の日本人選手である香川
「香川真司が2部リーグに移籍」というインパクトが強かったからなのかあまり話題にはなりませんでしたが、サラゴサには以前にも日本人選手が所属していたことがあります。
2015−2016シーズンに現在同様セグンダAでプレーしていたサラゴサは、2014年から監督にランコ・ポポヴィッチを招聘。
ポポヴィッチは2009年に大分トリニータ、2011年に町田ゼルビア、2012〜2013年までFC東京、2014年にはセレッソ大阪を指揮していました。
FC東京時代、セレッソ大阪時代に指揮したMF長谷川アーリアジャスールを2014−2015シーズンから監督に就任したサラゴサに迎え、2015−2016シーズンのセグンダA開幕戦ではフル出場させるなど重用していたのですが、最終的に成績不振を理由にポポヴィッチは2015年12月に解任。
ポポヴィッチの希望で獲得されていた長谷川はポジションをと同時に、クラブとしてはEU圏外選手枠を別の選手に使いたいという思惑があったために2016年に長谷川との契約を解除。長谷川はその後湘南ベルマーレに移籍し、現在は名古屋グランパスでプレーしています。
MARCAは長谷川がサラゴサでプレーしていたことに触れながら、香川がサラゴサの歴史上2人目の日本人選手であることを紹介。
長谷川はサラゴサでゴールを決めていないため、香川が59分にポンフェラディーナからあげたゴールが「サラゴサの日本人選手として歴史上初の得点」であることを強調しています。
ビクトル・フェルナンデス監督のコメント
セグンダA第2節のポンフェラディーナ戦前、サラゴサの監督ビクトル・フェルナンデスは記者会見において香川について次のように発言していました。
真司の適応能力には個人的にとても驚いている。パーソナリティが素晴らしく、もちろんサッカー選手としても非常に能力が高い選手だということはわかっていたし実際に練習中にもそれを示しつつあったわけだが、その事自体は開幕戦のプレーを見れば誰にでも明らかなことだろう。
最も驚くべきことは異なる環境、新しいチームメイト、新しいクラブに来てすぐに自分の能力を発揮できると証明しつつあるその事実だ。
どんな選手にとっても新しいチーム、特にリーグや国が変わった時にそれまでの実力をすぐに発揮するのは難しい。加えて真司の場合はその以前にしばらくトップフォームではプレーしていなかったし、スペイン語もまだ話せない。
そんな中で見せた開幕戦のプレーは、少なくとも彼にとってはサラゴサに来る前のやや難しかった状況はなんのデメリットにもなっていないことを示す結果になったと考えている。
もともとトップ下を使った戦術とフォーメーションを好み、トップ下選手の使い方をよく知るビクトル・フェルナンデスにとって、トップ下のプレーをより得意とする香川のようなタイプの選手はまさに喉から手が出るほど欲しい選手であったことは容易に想像できます。
ポンフェラディーナ戦では71分にアレックス・ブランコと交代でピッチを退いている香川ですが、この交代の理由についてビクトル・フェルナンデス監督は「結果的にゴールを決めているとはいえ香川のコンディションがまだ100%ではないこと」を理由として挙げていますが、90分通じてプレーできる状態になってくればサラゴサはチームとして更に良くなるだろうとも説明しています。
香川本人もTwitter公式アカウントで今後の意気込みをコメント
El partido de hoy ha sido muy duro. Tenemos que mejorar algunas cosas y ganaremos el próximo partido.
Vamos zaragosa#sk23 #aupazaragoza pic.twitter.com/CuCwiBVlqQ— SHINJI KAGAWA / 香川真司 (@S_Kagawa0317) August 25, 2019
また香川は自身の公式Twitterアカウントで
とても厳しい試合だった。いくつか改善しなければならないことはあるけれど、次の試合も勝つよ。
Vamos Zaragoza!
とコメントし、次節に対する意気込みとチームとして更に努力していく姿勢を示しています。
商業面でも歴史的な動きを見せる香川のサラゴサ加入
当ブログChemaLogでは、香川のサラゴサ加入決定後に以下の記事を執筆・公開しました。
【サラゴサ現地観戦】時間のない人でも楽しめるサラゴサ観戦&観光
この2記事に対するアクセスがとても高く、記事内に記載したサラゴサオフィシャルサイトのチケット販売ページへの流出も毎日定期的に確認できています。
それだけ香川の試合をサラゴサまで見に行きたいと思っているファンが多いということの現れなのだろうと思っているのですが、それを裏付けるような記事がMARCAにも掲載されています。
2週間で650枚以上のユニフォームを販売
香川のサラゴサ移籍が発表されたのはスペイン現地時間8月9日でしたが、正式に香川の背番号が23だと発表されてからの2週間で、すでにサラゴサのオフィシャルショップでは650枚以上のユニフォームが販売されています。
日本人ファンのみならず、サラゴサの地元ファンが購入するケースも多く、中でも女性ファンが購入する割合が高いとのこと。
※ちなみにですが、スペイン人の女性は年齢が上がれば上がるほど日本人の感覚でいわゆる「イケメン」に相当する男性を好むことが少なく、例えば元ポルトガル代表MFルイス・フィーゴのような「男臭い」タイプを好む傾向が多いので、香川のユニフォームを購入している女性ファンは10代〜20代前半の女性が多いものと推察されます。
過去において日本人選手がヨーロッパに移籍する際、選手としての実力よりも彼らに群がるマスコミの数や、スポンサーの獲得状況といった「マーケティング要素」のほうが話題に上がることが多い時期がありました。
しかし今回の記事においてMARCAは
サラゴサのユニフォームが売れたかどうかということは言うに及ばず、最も注目すべきは彼がピッチに登場することであるのは間違いない。
期待される実力を発揮できるのかどうかということをファンは最も望んでおり、少なくとも現段階において彼はそれを実現し始めている。
2試合で1ゴール。ゴールには結びつかなかったが魔法のようなパス。彼の実力を示す高いボールコントロール能力。
この日本代表選手はすべてのサラゴシスタにとって、来年の6月に7年間続くセグンダAでの地獄から抜け出すための大きな希望となっている。
と結んでいます。
もちろんこれは香川が2010年以降にヨーロッパで積み重ねてきた数々の実績があってこそ初めて書かれるコメントではあるのですが、プロサッカーリーグであるJリーグが始まって30年にも満たない日本サッカーから羽ばたいた選手が、スペインでこのような評価を受けるようになっているというのはとても素晴らしいことでしょう。
そしてこれは香川のみの実績でもなく、例えばスペインにおいてはエイバルの日本代表MF乾貴士が示してきた実績や、それ以前の城彰二、西澤明訓、大久保嘉人や家長昭博といった選手たちの存在も無視はできません。
香川は「アラゴンの英雄」になれるか
サラゴサの町があるアラゴン州は、中世ヨーロッパ史において歴史の転換点となった場所です。
現代のスペイン王国成立に大きな道筋をつけた場所であり、アラゴンの王は「カトリック王」として今でも世界史上の偉大な人物として語り継がれています。
香川のプレーにより、サラゴサの町がスペインサッカーの歴史の中で再び輝くときを迎えるのかどうか。
日本人のサッカーファンとしては、香川が「アラゴンの英雄」としてプリメーラ・ディビシオン昇格の立役者になる未来が来ることを願うばかりです。