トロ・フェルナンデスのひき逃げ事件
セルタ・デ・ビーゴのウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスは現在チームのプレシーズン合宿を離れ、ウルグアイに帰国中です。
帰国の理由は昨年2018年12月29日にトロ・フェルナンデス本人が起こしたひき逃げ時間に関わる最終審理を裁判所を受けるためです。
トロ・フェルナンデスは自身の運転する乗用車で当時18歳だった女性ロミーナ・フェルナンデスさんを跳ねるひき逃げ事故を起こしており、この事故による逮捕と裁判の影響で冬の移籍市場でセルタへの加入が決まっていたにもかかわらず、ウルグアイの裁判所からくだされた出国禁止命令のためにセルタへの合流が2018−2019シーズン終了までずれ込んでいました。
ロミーナ・フェルナンデスさんは現在病院の集中治療室に入院中で、頭部、腕を中心に激しいダメージを受けており、事実上植物状態と診断され意識の回復は生涯に渡って困難だろうと医師から診断をくだされています。
そのためロミーナさんは今後生涯に渡る生命維持装置等を使用した入院治療を余儀なくされ、莫大な治療費と入院費用の支払いが必要になります。
6月18日の段階でロミーナさんの父親はトロ・フェルナンデスと弁護士側の対応を厳しく非難。
「無責任で道徳に欠けた対応」だとしてトロ・フェルナンデスに140万ドル(約1億4000万円)の賠償金を支払うよう求めていました。
トロ・フェルナンデス側が6月にロミーナさんの家族へ提示した賠償金の提案金額は90万ドル(約9000万円)でしたが、家族側は不足だとしてこれを拒否。最終的な賠償金の金額はモンテビデオの裁判所命令に委ねられることになっていました。
ウルグアイ裁判所の判決
保釈条件と裁判の履行を保証することで出国禁止命令を解かれたトロ・フェルナンデスはセルタに合流しプレシーズン合宿とプレシーズンマッチにも参加していましたが、現地時間8月7日に行われる最終審理のためにチームを離脱しウルグアイに帰国。
最終的にウルグアイの首都モンテビデオにおいて裁判所が下した決定は、トロ・フェルナンデス側に80万ドル(約8000万円)を支払うよう義務付けるものでした。
トロ・フェルナンデスがこの裁判所命令を受け入れたことにより裁判は結審。
2019年8月31日までにトロ・フェルナンデスは賠償金の一部を支払うことを約束しており、この支払をもって賠償意思ありと認められることになるため、裁判所命令を受け入れたこととあわせて今回のひき逃げ事故に対する法的責任を全うしたとみなされることになります。
さらに今回の判決によりトロ・フェルナンデスに対するウルグアイ司法の観察処分からも開放され、ヨーロッパにおける今後のサッカー選手としてのキャリアに対しても一切拘束を受けないことが決まりました。
道義的責任から開放されたと言えるのか
表面上は裁判が結審し、法的責任を全うすることが決定したトロ・フェルナンデスですが、果たしてこれを「解決」したと述べて良いものなのかどうか、僕は結論づけることができずにいます。
80万ドルという賠償金の支払いを受け入れ、支払う意志を明確にしているとはいえ、トロ・フェルナンデスが起こした事故は「ひき逃げ」事故です。
日本で言うところの「救護義務」を怠ったことは間違いのない事実であり、その結果として18歳の若者の人生を奪ってしまったことに変わりはありません。
ロミーナさんは生命こそ保持しているとはいえ、意識の回復は見込めないという診断がくだされており、家族はこの先一生ロミーナさんを病院で介護する生活を余儀なくされます。
この事実はロミーナさんが死亡するまで家族はこの事故から離れられないということを意味していると僕は考えますし、個人的見解としては今回の裁判所による決定とトロ・フェルナンデスの判決受け入れと賠償金の支払いが成されるとしても、ロミーナさん本人とその家族に対する道義的な責任から開放されるとは言い難いものなのではないかと思うのです。
ただし、だからといってトロ・フェルナンデスが定期的に本人や家族の元を訪れて度々謝罪や、もしくは何かしらの行動をしていくことが必要なのかどうかも僕には判断がつきかねます。
僕は一度交通事故にあい入院したことがあります。
信号無視のタクシーに自転車ごと跳ねられ、頭部に負傷を負い入院した経験を持っています。
退院後に僕を跳ねたタクシーの運転手は自宅まで「謝罪」に来ましたが、菓子折りを持ってニコニコと現れた初老の彼のことを、僕は到底許す気にはなれませんでした。
交通事故は本人にも周りの家族等にも深い傷を残します。ましてや今回のケースでは被害者本人が意識を取り戻す見込みがないと診断されてしまっており、家族はロミーナさんと言葉をかわすことが一生できなくなってしまっています。
いくら賠償金を支払われようと金額の問題ではなく、家族の唯一最大の望みはロミーナさんが意識を取り戻し、自分達のもとに戻ってくることだろうと容易に想像がつきます。
メディアを通じて見た裁判所で判決を聞くトロ・フェルナンデスの様子は殊勝なものには見えましたが、果たして本人がどう考えているのかまでは読み取ることが出来ません。
弁護士により余計なことを口走らないように本人からはコメントしないよう指示が出ていることは十分考えられますし、恐らくその方がいいのでしょう。
トロ・フェルナンデスは恐らくサッカー選手としては非凡な才能を持った若者でしょう。
しかしここまで一連の事故に関するニュースを調べていると、まだまだ人間として精神的に未熟な若者だと言わざるを得ません。
そして責任感の欠如が著しい人物だとも言っていいでしょう。
果たして彼がこのままサッカー選手として第一線に立ちプレーしていくことが良いことなのかどうか、僕にはわかりません。仮にセルタでゴールを量産することになっていくのだとしても、正直に言って僕は彼のゴールを心から喜ぶことができないのではないかとも感じています。
恐らくかなり高い確率で、トロ・フェルナンデスがロミーナさんの家族から本当の意味で許される日は永遠に来ないでしょう。また、許されるべきでもありません。
セルタがひき逃げ事故のことを把握してもなおトロ・フェルナンデスとの契約を破棄せず、チームへの合流を受け入れたのは何故なのかは僕にはわかりません。この点に関しては僕の中に大きな疑問が生じています。
即座に引退して被害者への贖罪の人生を歩めとまでは言うつもりはありませんが、せめてロミーナさんとその家族への多大で永遠に続く責任があることをしっかりと認識し、たとえ許されることはなくともなにかの形で明確な誠意を表せる人間になってくれることを、1人のセルタファンとして僕は願うばかりです。
もしもそうではなく、またそうなる素振りも見せられないような人間であるならば、僕は彼にセルタでプレーして欲しくはありません。