サラゴサの大手地元紙HeraldoとEl Periodico de Aragon
日本代表MF香川真司が移籍したレアル・サラゴサのホームタウン、サラゴサには2つの大手地元紙があります。
それがHeraldo(エラルド)とEl Periodico de Aragon(エル・ペリオディコ・デ・アラゴン)です。
スペインにはEL PAIS、EL MUNDOなどの大手全国紙もありますが、基本的に地元のニュースは各州の大手紙や地元の地方紙のほうがスポーツや日常ニュースの内容が豊富なことが多く、特にサッカーのニュースにおいては地元紙に勝る情報量のものはないと言ってもいいでしょう。
ちなみに、Heraldoが新聞の印刷に使用する一部の機材や材料は日本の某大手メーカーのものを使用しています。
Heraldo、El Periodico de Aragon両紙共に、香川の移籍にはビクトル・フェルナンデス監督が100%同意し、ビクトル・フェルナンデス本人もサラゴサのクラブ首脳陣に対して獲得を要請したと報じており、急転直下の移籍決定であることを報じつつも、クラブと監督双方合意・同意の上で全力を上げて獲得を行った移籍であることを強調しています。
El Periodico de Aragonの報道
香川の移籍を報じるEl Periodico de Aragonの論調には全く否定的な響きは見られず、むしろ言外に「これでチームに欠けていたものが揃った」と言いたいような意図が見え隠れする文章が目立ちます。
El Periodico de Aragonによると、香川は現地時間8月13日正午から入団会見を実施した後、13時15分からホームスタジアムであるラ・ロマレーダでファンに対するお披露目「プレセンタシオン」を行うとのこと。
背番号も同時に発表されるかどうかは明らかにされていませんが、シーズンの開幕を控えている状況からするとこのプレセンタシオンで背番号も発表になる可能性はあるのではないでしょうか。
また同記事内でEl Periodico de Aragonは香川の歩んできたキャリアについて下記のように紹介しています。
香川は卓越した技術クオリティとプレービジョン、ラストパス能力、得点感覚において最高レベルの選手であり、チームをリードすることのできるスターとなれるだろう。
キャリアのほとんどをメディアプンタ(スペイン語で”トップ下”の意味)としてプレーし、120ゴールを記録している。右利きの選手ではあるがむしろ両利きと言ってよく、彼が扱う左足はスペクタクルなものだと言いきれる。負傷さえなければ、もはや彼はセグンダAのレベルを凌駕するレベルにあることは間違いなく、これまでのところドイツで通常通りのトレーニングを行っていたことが確認できている。
日本のセレッソ大阪でプロとしてのキャリアをスタートし5年間を過ごした後、香川は欧州に舞台を移してボルシア・ドルトムントでその成功の立役者たる活躍を見せた。ドルトムントでカップ戦で1度、ブンデスリーガで2度それぞれ優勝をもたらしている。
マンチェスター・ユナイテッドに移籍した後もプレミアリーグ1度、コミュニティ・シールド1度の優勝を勝ち取り、ドルトムント復帰後さらにカップ戦を1度獲得。
昨シーズン後半はトルコのベシクタシュに移籍し3ヶ月で14試合4ゴール、2アシストと実力が錆びついていないことを証明しており、日本代表でも97試合に出場しワールドカップ本大会にも2度出場を果たしている。
負傷がなければサラゴサをひとつ上のレベルにまで高められる選手であるとでも言いたげなこうした論調は、スペインのメディアでは少し珍しいものです。
MARCAやASなどの大手紙は期待を煽るような論調の記事を配信することもありますが、基本的に各地元紙は冷静で淡々とした記事を書くことが多い中で、El Periodico de Aragonのこの記事内容はそれだけ香川に対する評価が高く、同時に期待値も高まっていることをうかがわせるものだと言えるでしょう。
Heraldoの報道
一方、サラゴサにおけるもう一つの有力地元紙Heraldoも香川について詳しく伝える記事を掲載。El Periodico de Aragon同様に香川を「日本代表のトップ下」と紹介しています。
Heraldoは香川の代理人サイドから直接サラゴサに対して売り込みがあったとしたうえで、その売り込みを受けてサラゴサがクラブとして獲得交渉を行う決断をしたと伝え、サラゴサのスポーツディレクター、ラロ・アランテギとビクトル・フェルナンデス監督が協議の上で獲得を決めたと報じています。
ラロ・アランテギは英語を使って香川本人と直接話をしたとHeraldoは書いており、香川との直接交渉においては元サラゴサでマンチェスター・ユナイテッドにおいて香川とチームメイトだったスペイン代表DFアンデル・エレーラのサポートがあったともHeraldoは伝えています。
Heraldoは香川の長年の希望だったスペインでのプレー、そして香川のプレーの特徴について以下のように詳報。
アラゴンで2シーズンを過ごすことが決まった香川は2部リーグでプレーするにも関わらず相応のサラリーとなることを了承したが、これは彼が長年に渡ってスペインでプレーするという望みを持っていたからこそ実現できた対応だったとも言える。
香川は右利きのトップ下としてボルシア・ドルトムントにおいて欧州サッカー界にインパクトを残し、ユルゲン・クロップによってその才能を開花させた。
その輝けるドルトムント時代の実績によって、最高レベルの輝きを示せこそしなかったがマンチェスター・ユナイテッドへの移籍を勝ち取るまでの実力を示し、最終的には再びドルトムントへ戻っていた。
2010年にドルトムントへ移籍した香川は2011−2012シーズンに20ゴール・14アシストという素晴らしい記録を残しており、攻撃的且つ流動的、ボールコントロールとドリブル突破力をあわせ持ち、ラストパスのセンスもあり攻撃を締めくくるための能力を持った選手だ。中央でプレーすることをより好む傾向があるのは間違いないが、展開によっては左サイドをこなすこともできる。
香川について語るHeraldoの論調にも一切否定的な雰囲気は感じられず、「これだけの選手がサラゴサに来てくれた」とでも言いたげな雰囲気すら感じさせる報じ方だと言えるでしょう。
地元の期待を受けた香川は輝けるか?
地元紙がこれだけ煽り立てるような記事を書いてしまうと、例えば香川の名前は知っていても実際にプレーを見たことのないファンの期待は高まってしまい、過剰なものになってしまわないかと少し心配になる部分があるのは確かです。
スペインのファンは熱しやすくも冷めやすい部分があり、初期の期待が大きすぎると実際の姿とのミスマッチに絶えきれずすぐにそっぽを向いてしまうことも往々にしてあるのが現実です。
そういった場合に最も力になってくれるのはチームメイトであり監督です。
幸い、既にサラゴサの練習に合流している香川はチームメイトと打ち解け始めている様子が写真からもわかりますし、ビクトル・フェルナンデス監督も自ら望んで獲得をクラブに許可・要請した以上は香川を活かす戦術・戦略を練っていくでしょう。
そしてビクトル・フェルナンデス本人がサラゴサ出身であることから、サラゴシスタ達がどのような性格で、どのような反応をする人達なのかを、ビクトル・フェルナンデス本人が一番よくわかっています。
「アラゴンの英雄」候補としてサラゴサにやってきた香川が、地元ファンの期待を受けてそれを実現し、スペインの地で輝くことができるのかどうかは、ひとえに彼自身のコミュニケーション力とチームメイトや監督を始めとするクラブ全体の協力にかかっています。
少なくとも香川が所属したこれまでのクラブで、「彼の獲得は失敗だった」という話が公に語られたことはないはずですし、ファンに愛されてきた過去があります。
願わくば、サラゴサでもそうなることを僕は祈っていますし、ここ数年で増加したスペインでプレーする日本人プレーヤーを代表する存在になっていってくれることを、僕は願って止みません。