ロボツカのナポリ移籍によるサラリーキャップの上昇
2019−2020シーズン冬の移籍市場においてセルタ・デ・ビーゴはスロヴェニア代表MFスタニスラフ・ロボツカをイタリアのナポリへ売却しました。
この移籍によってセルタのサラリーキャップが約6,200万ユーロ(約74億円)から約6,800万ユーロ(約81億円)まで上昇しています。
これはラ・リーガのプリメーラ・ディビシオン全チーム中11位となる金額で、単純に考えればセルタは今後の選手獲得において給与面での調整が以前よりも軽くなることを意味します。
2013年から導入されたラ・リーガのサラリーキャップ制度。
そもそもの目的はリーグ全体の競争を活性化させるために、選手や監督・コーチの年俸、彼らの移籍金等の減価償却費やボーナス、代理人への手数料や下部組織育成に使用される強化費の限度額を定めたものです。
年々膨らみ続けるサッカー階のマネーが過度に高騰しないよう調整し、各クラブの経営を健全化する目的でも効果があるとされています。
セルタにとっては吉と出たサラリーキャップ制度
サラリーキャップ制度はアメリカのプロバスケットボールリーグであるNBAなどが古くから導入している制度で、NBAでもラ・リーガと同様にリーグ内の特定チームがスター選手を独占してリーグ内の競争力を失わせないようにする効果を発揮していました。
95年に欧州司法裁判所がいわゆる「ボスマン判決」を出して以降、ヨーロッパにおける移籍金や選手の年俸、そしてテレビ放映権料などはそれぞれ連動して高騰。
一つの例としては2000年代初頭のレアル・マドリーのように膨大な資金力に物を言わせたテレビゲームのようなチームが誕生するなど、当該チームのファン以外からはジョークとしか思えないような状況を生み出すことにもなりました。
そしてその影では同様の、あるいは類似するような資金力の強大なクラブ達に敗れ続け、結果的に降格という憂き目にあった資金力に乏しい中小以下のクラブ達の中には主力の流出や給与の未払い、さらにはテレビ放映権料の喪失によって経営そのものが立ち行かなくなり再建が難しくなったケースも散見されます。
2000年代中盤のセルタもまさにそのような状況に片足を突っ込んだ状況に陥りました。
以前公開した記事「経営改革により10年間で負債総額の大幅減額に成功」でも書いた通り、2009年の時点でセルタの負債総額は約6,700万ユーロ(約82億円)でした。
2003−2004シーズン後、計2度の降格を受けてクラブの財政は火の車。
UEFAカップやチャンピオンズリーグの放映権料、それまで何とか上位に手が届くか届かないかという順位をキープしていた頃に手に入れていた収入のほとんどを失ったセルタにとって、6,700万ユーロという負債は簡単に返済できる種類の金額ではなかったのです。
ところが2018−2019シーズン終了後にクラブが明らかにした情報では、この6,700万ユーロをほぼ完済に近い状態まで返済したと言われています。
カルロス・モウリーニョ会長の交渉力や資金の融資を行ったABANCA(旧Caixanova)の助力も多分に影響したことは間違いありませんが、2013年から導入されたサラリーキャップ制度により強制的にクラブの財政が健全化されたことも影響していると見て間違いはないでしょう。
少なくとも、2000年代初頭のように「どうしてセルタごときがこの選手を獲得できるのか」というレベルの「身の丈に合わない」選手を獲得することはなくなりましたし、獲得することがあったとしてもそれは誰もが納得する明確な状況的理由が存在していました。
セルタにとってはこのサラリーキャップ制度がクラブの財政を再生させる一助となったことは疑いようのない事実ではあるのです。
立ち上がるために乗り越えるべき壁
財政的には立ち直りつつあるセルタですが、それはあくまでもサッカー以外の面での話です。
確かに2016−2017シーズンにはヨーロッパリーグで準決勝まで進出するなど2000年代初頭を思わせるような成績を一時は残しましたが、それ以降は2019−2020シーズンのここまでを見てもわかるように降格するかしないかの瀬戸際に立たされています。
セルタの経営が本当の意味で立ち直り、クラブとして安定軌道に乗るために必要なことは誰がなんと言おうとリーグ戦で好成績をあげることにほかなりません。
財務状況が好調であってもチームがプリメーラ・ディビシオンにいなければ入場料収入やテレビ放映権料は減少するだけですし、質の高い選手を獲得して上位を目指すこともままなりません。
それは今シーズンのマジョルカを見ていれば火を見るより明らかです。
第23節のセビージャ戦に勝利したことで一時的に降格圏を脱出し、第24節でアウェーのレアル・マドリー戦に臨むセルタの現状に関して、チームの象徴であるFWイアゴ・アスパスは次のようなコメントを残しています。
このまま残留を実現できると僕は確信している。
それに、昨シーズンはもっとひどい状況だったが、あの時も同じように大丈夫だと信じていた。
Operación Retorno=帰還事業と呼ばれるカンテラ出身選手達の再獲得を行い、「ビーゴのクラブ」としてのアイデンティティ再確立に向けて走り出した今シーズンのセルタですが、当初期待されていたデニス・スアレスが調子を落とし、チームの成績も下降。
オスカル・ガルシア・ジュンジェン監督のもとで立ち直りの兆しを見せ始めたチームはこれからどのようなプレーを見せていくのでしょうか。
幸いなことにアスパスをはじめとして、ラフィーニャやジェイソン・ムリージョらがピッチ上でリーダーシップを発揮し始めています。
地元愛だけではなく、チームを鼓舞するための厳しさが更に求められていくであろう後半戦の残り試合で、セルタ・デ・ビーゴがどのような戦いを見せてくれるのか。
これまでと同じように僕は生暖かく見守っていくつもりです。