かろうじて残留を決めたセルタ
ラ・リーガ・サンタンデール2019−2020シーズンが終わりました。
「終わることができました」の方が、もしかしたら言い方としては適切なものになるのかもしれません。
2019−2020シーズンはそんなシーズンだった、とサッカーファンに語り継がれるシーズンとして記憶されていくことになる気がします。
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大によって3ヶ月も中断されることになったにもかかわらず、何とかリーグ戦を再開し現地時間7月19日にシーズンを閉幕したプリメーラ・ディビシオン。
セルタ・デ・ビーゴは辛くも17位でシーズンを終え、首の皮一枚で残留を果たすことに成功しました。
17位。
2018−2019シーズンも同じく17位で残留を果たしているセルタですが、その「中身」は僕達セルタファンから見ても思うところがあるものになったのは事実です。
1人のセルタファンとして、2019−2020シーズンのセルタを振り返ってみようと思います。
「帰還事業」で駒は揃ったはずだった
2018−2019シーズンを辛くも乗り切り、何とか残留を果たしたセルタは、シーズン終了後にカルロス・モウリーニョ会長がビデオメッセージをファンに向けて公開。
ビデオの中でモウリーニョ会長は
「今シーズンのようなことを繰り返すわけにはいかない。ガリシアを代表するクラブとしてこのような姿を見せてはいけない。来シーズンは早々に残留を決めることを第一の優先目標とし、さらなる高みを目指せるチームを作ると約束する」
とファンに語りかけました。
就任当初から「カンテラの強化」を度々口にしてきたモウリーニョ会長は、その言葉を裏付けるようにシーズンオフの間一貫してセルタのカンテラ出身選手を「帰還」させることを優先させます。
バルセローナからデニス・スアレス。
バレンシアからサンティ・ミナ。
オリンピック・リヨンからパペ・シェイク。
そして更にバルセローナからラファエル・アルカンタラ・“ラフィーニャ”。
幼少期をセルタのカンテラ=下部組織で過ごし、中にはセルタでプロデビューしたものの様々な事情で移籍していった選手たち。
前線と中盤にカンテラ出身者を配置し、ディフェンスラインには経験のある選手と将来性のある選手を並べ、サイドバックにキャプテンを置く。
ファンから見ても、外部から見ても、2019−2020シーズン開幕前に行ったセルタの補強方針と内容は理に適ったものとして評価され、カルロス・モウリーニョ会長が推進した「帰還事業」はファンからの大きな期待を受けることになったのです。
前線にイアゴ・アスパス、サンティ・ミナ、ブライス・メンデス、デニス・スアレス、ラフィーニャが並び、フラン・ベルトランやオカイが彼らをサポートする。アスパスがゴールを量産し、4年連続のサラを獲得する。
そんな未来をファンは夢想しました。
メディアも、選手たち自身もそうあるだろうと考え、「早々に残留を確実にし、シーズンを通じてチーム作りをしながらあわよくばヨーロッパリーグ圏内を目指す」。
そんな声もちらほら上がり始めながら開幕を迎えたセルタは、しかし一転して状況がそれほど簡単ではないことを徐々に実感することになります。
勝てないチームと点を取れない攻撃
プレシーズンの段階から経営陣とコーチ陣、特にスポーツディレクターのフェリペ・ミニャンブレスが口にしていたのは「勝利のためにはゴールが必要で、ゴールをあげるためには得点力のある選手、得点に結びつくプレーができる選手が必要。そのための移籍をこの夏には実現してきた」という言葉でした。
そして、彼の言葉は嘘だったわけではありません。
アスパスの負担を軽減し、更にゴール数が増やせるようなサポートができる選手でありながら、自分自身でもゴールを狙えるサンティ・ミナやデニス・スアレス、ラフィーニャを獲得したことは論理的に思えましたし、結果的にはミナとのトレードのような形で放出したウルグアイ代表FWマキシ・ゴメスとよく似たタイプの選手だとされるガブリエル・フェルナンデスも合流が決まっていました。
どっしりと構えるセンターフォワードタイプの選手と組むことで安定した技術に裏打ちされた得点力を発揮し続けているアスパスを更に活かそうとする意図は間違いではありません。
ウインガーとしてデビューし、その後ストライカー的な動きも身につけてバレンシアに貢献してきたミナをアスパスの代役およびサポート役と考えることも自然でしょう。
デニス・スアレスとラフィーニャでボールをキープしながら前に進むアクセル役を担うという理想像も理解できます。
傍目には論理破綻していないように見えるセルタがレアル・マドリー、バレンシア、セビージャという開幕の3連戦を1勝1敗1分で乗り切ったのを見た時、僕達ファンも周囲も、「思ったよりもやるかも」という感想を抱きつつありました。
しかし、メンバーが揃い、守備が崩壊しているわけでもなく、誰かが決定的にひどいプレーをしているわけでもないセルタはそこから全く勝てなくなりました。
第4節から第7節まで2敗2分。第8節のアトレティック戦に勝利したものの、第9節から第13節まで5連敗。
思い出したように第14節のビジャレアル戦にアウェーで勝利したものの、第16節から第22節まで再び勝利なし。
バルサに4失点は相手との実力差を考えれば仕方のないことだったと言えるでしょう。
一方でレガネスに3失点、マジョルカに2失点、レバンテに3失点というのは力関係にさほど差がない中で攻めた結果とも言えますし、レガネス戦での3失点は不用意な退場処分により数的不利に陥った結果とも言えます。
ただ一つ言えるのは、とにかくセルタは勝てませんでした。
勝てないだけでなく、点が取れない。
点が取れないなどというのは結果論で、つまり点を取るためのプロセスがまるで存在しないに等しいチームになっていました。
ボールが持てないわけではない。攻められっぱなしなわけでもない。ある程度相手陣内にも侵入している。パス成功率が著しく悪いわけでもない。
にもかかわらず点が取れず、シュートまでいけない。
全日程を消化した状態で振り返ってみて分かる通り、だからといって失点が特段多かったわけでもなく、ディフェンスが崩壊したとも断じることもできません。
11月2日にフラン・エスクリバ監督を解任するまで、僕は「一つきっかけになる勝利があれば状況は改善するのではないか」と考えていました。
選手も入れ替わり、連携を構築している最中であり、きちんとしたプロセスを経た上で勝利を上げるという成功体験を一つ持つことができれば、現在のメンバーならそこから一気に階段を駆け上がるのではないかと。
そう考えていたのです。
が、実際にはそうはなりませんでした。
アトレティコにアウェーで引き分けても、アトレティックにホームで勝利しても、チームは一向に改善しませんでした。
監督と選手のミスマッチ。あるいはクラブと監督のミスマッチ
2018−2019シーズンの後半戦、フラン・エスクリバのもとで息を吹き返して残留を果たしたセルタでしたが、振り返って見れば結果的にチームを救ったのはイアゴ・アスパスの復帰だったと言っても過言ではありません。
約3ヶ月に渡る負傷離脱から復帰すると同時に、何事もなかったかのように得点を量産し劇的な働きでチームに勝点をもたらしていったアスパスがいなければ、セルタは今頃セグンダに降格していたはずです。
マキシ・ゴメスを真ん中に据え、軸を通したような形にして衛星的にアスパスが動き回る。その「付かず離れずの連携」をチーム全体で後方から支援する形を徹底する素早いカウンターを繰り出し続けることでフラン・エスクリバのセルタは息を吹き返し残留を果たしたわけですが、この事実そのものに対する検証は置き去りにされたままだったと言えるでしょう。
2018−2019シーズンはもともとアントニオ・モハメドを新指揮官に迎えた状態でスタートしたシーズンでした。その後ミゲル・カルドーゾに監督が交代し、更にカルドーゾがフラン・エスクリバに交代しています。
結果的にエスクリバのカウンタースタイルが終盤の数試合にハマり、なおかつアスパスのコンディションが長期療養の副産物として劇的に回復しフレッシュな状態になったことが起爆剤のように作用した結果の残留であり、スタート時点からカウンタースタイルのチームとして構成されたわけではなかったはずです。
エスクリバは決して悪い監督ではありません。ビジャレアルでも一定の結果を残してきた監督です。
しかし、エスクリバのスタイルで戦うのであれば戦術上必要な選手、適したタイプの選手を揃える必要があります。
残留という結果が出たことで、現有戦力プラスαによってエスクリバ本来のスタイルでの戦いが可能だと経営陣は判断したのかもしれませんが、最終的にそれは失敗でした。
カウンターは中途半端になり、軸になる「9番タイプ」の選手がいなくなったことで、せっかく奪ったボールもピンボールのように跳ね返されること多数。スピードに乗った攻撃でペナルティエリア付近までは到達するものの、そこから先をこじ開けることができない試合ばかりが続きました。
第2節のバレンシア戦、第3節のセビージャ戦がわかりやすい例ですが、結局セルタの得点はスピードに乗った状態からの一点突破で生まれることが多く、じっくりボールを保持して相手を崩したり、多少強引にでも相手ディフェンスをこじ開けて奪ったゴールはほとんどありません。
フラン・エスクリバは新たに獲得した選手たちの特徴と特性を活かすようなサッカーを構築するための理論を持っていたのでしょうか?
クラブはフラン・エスクリバが持つ理論や戦術に最適な選手を連れてきたのでしょうか?そもそもフラン・エスクリバがチームを率い続けることを決めた根拠はなんだったのでしょうか?
苦しい開幕3連戦である一定の結果を「出してしまった」「今後もやれそうな雰囲気になってしまった」ことは、2019−2020シーズンのセルタにずっと付きまとうことになりました。そしてこのことが、チーム全体のミスマッチからファンもクラブも目線を外してしまう一つの原因であったのだろうと思います。
監督交代で改善したもの
現地時間2019年11月3日。
セルタはフラン・エスクリバを解任し、カタルーニャ人のオスカル・ガルシア・ジュンジェンを新監督に迎えます。
故ヨハン・クライフによって整備されたバルサのカンテラ「ラ・マシア」で見いだされたいわゆる「クライフ・チルドレン」達の1人で、ジュセップ・グァルディオーラとはほぼ同期のような間柄です。
オーストリア・ブンデスリーガのザルツブルグではリーグ2連覇を成し遂げた経験を持ち、日本人としては南野拓実を指導した監督として記憶の片隅に置かれていた方もいるかもしれません。
クライフは選手としても監督としても自分に大きな影響を与えてくれた人物。監督として選手と共有したい考えは”ボールがどう動いて”、”そのボールはなぜそう動いたのか”をチーム全体で認識すること。そうすることで必ず解決策が見えてくると信じている。
就任記者会見でこのように述べたオスカルは、暗に「もっとボールを動かし、その軌道を基準に選手たちが流動的に動きながらゴールを目指すサッカー」を行っていくという意思表示をしました。
実際にオスカルが指揮を取るようになったセルタは、相変わらず勝利には届かないものの、攻撃面ではある程度の改善が見られるようになったと僕は見ていました。
少なくともエスクリバ時代のチームよりボールを前に運び、ゴールを狙う姿勢ははっきりと示されるようになり、潰し役がいない中盤の弱さをカバーするようにラフィーニャが積極的に体を張るようになったのです。
そしてこのラフィーニャが見せた変化こそが、セルタに足りないものが何なのかを端的に表していたと言えるでしょう。
本来ならラフィーニャにその役割を求めているわけではないとか、もっと体を張るべき選手がいるはずだとか、様々な意見は現地ビーゴのセルタファンからも声として上がっていましたし、僕もそうだと思うのは確かです。
例えばオカイ・ヨクシュルやフラン・ベルトラン、パペ・シェイクが12月〜2月にかけてラフィーニャが見せた変化と同等の変化を見せてくれていればよかったのに、と今でも僕は思っています。
しかし実際にはそうはならなかった。変わろうとし、変わり、変わった姿をチーム内外に結果として見せることができたのはラフィーニャでした。
そしてこのラフィーニャの変化は、オスカルが就任当初からチームに足りないと言い続けていた「ピッチの中で明確なリーダーシップを発揮できる選手があと1人か2人は欲しい」という要望を少なからず満たすものでした。
ラ・マシア出身の監督と選手が揃ったからなのか、オスカルの発言を聞いたラフィーニャが個人的に発奮したのか、「こんなはずではない」とチームを鼓舞する決意をしたのか、それはわかりません。
確かなことは、2020年年明けのセルタにはラフィーニャという新たなリーダーが生まれたということでした。
そしてラフィーニャのリーダーシップと同時に、セルタは徐々にファンが期待し望む姿へ戻り、あるいは変貌を始めようとしていたのです。
それは、世界で大きな動きが始まってしまったそのさなかの出来事でした。