苦しむセルタとロシア代表FWスモロフ
セルタ・デ・ビーゴは昨シーズンに引き続き苦しんでいます。
こういう書き方をすると「本来だったら違うはずなのに」というニュアンスが含まれているように思われるかもしれません。
そうではなく、昨シーズンから恐らくあったであろう問題が解決されないままになっている、という意味で僕は書いています。
冬の移籍マーケットでセルタはロシア代表FWフョードル・スモロフをロコモティフ・モスクワから獲得しました。
2018年のロシア・ワールドカップではロシア代表の背番号10を付け全試合に出場。
187cmという長身ですが足元のテクニックもあり懐の深さが特徴的なプレースタイルだったというのが僕の印象です。
セルタにロシア人選手が加入するのは久々のこと。
過去のセルタにおいては1990年代末期から2000年代初頭においてアレクサンデル・モストヴォイとヴァレリー・カルピンという2人の名手がおり、「ロシアン・コネクション」と呼ばれるほど息のあったプレーで当時のセルタがUEFAカップやチャンピオンズリーグに出場する立役者になりました。
モストヴォイとカルピンがセルタでプレーしていたのは約20年前のこと。
フョードル・スモロフは1990年生まれですから、スモロフは自身の少年時代にモストヴォイやカルピンがセルタのユニフォームを着てプレーする姿を見ていたはずです。
では、セルタはなぜこの時期にスモロフを獲得しようと決めたのでしょうか。
監督、SD双方からの勧誘を受けたというスモロフ
加入記者会見やインタビュー動画において、スモロフ本人は「フェリペ・ミニャンブレスSDとオスカル・ガルシア・ジュンジェン監督から直接話を聞く機会があった」と発言しています。
また「クラブ(ロコモティフ・モスクワ)幹部から『セルタから獲得オファーがあるがどうするか』と聞かれてとても興奮した」とも発言。
このことからもスモロフはセルタのことを以前から知っており、なおかつセルタ内部でも監督を含めた運営陣全体でスモロフの獲得を進めたことが想像できます。
インタビュー内でのスモロフは終始穏やかな表情でセルタに加入した喜びを語りつつ、「このチームはこんな順位にいるべきじゃない。可能な限り早く”いるべき場所”に戻るべきだ」と語っており、スモロフ自身がセルタについてどんな印象を持っていたのかがわかって個人的には面白いと思ったのが正直な感想です。
デビュー戦となったバレンシア戦は78分にウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスとの交代で出場。
アディショナルタイムを含めれば15分ほどのプレーだったスモロフですが、その間に見せたいくつかのプレーを見て、僕はオスカル監督がなぜスモロフの獲得を決めたのかがわかった気がしました。
そしてその理由こそが今シーズンのセルタが現在の順位にいる理由=問題点なのではないかと思ったのです。
「帰還事業」に覆い隠されてしまっていた問題点
2019−2020シーズンの開幕前、ビーゴの町は沸きました。
デニス・スアレス、サンティ・ミナ、パペ・シェイクといった、過去に様々な事情で故郷であるビーゴを離れ、セルタを離脱していった選手達=失われた子どもたちが帰ってきたからです。
もちろん、僕も嬉しい気持ちで一杯だったことは事実です。
デニス・スアレスのプレースタイルは僕の好みですし、サンティ・ミナがデビューした当時にセルタで見せていたプレーはセルタの未来を感じさせるものでした。
しかしこの喜びの感情こそが、僕も含めたセルタファンの目を曇らせていたのではないか、とバレンシア戦のスモロフを見て僕は思ったのです。
今シーズンのセルタはとにかく得点が取れません。
ここまでの22試合でわずか17得点。
わずか1得点しか違わないとはいえ、最下位エスパニョールよりもゴールが少ないのです。
セルタファンは口を揃えて言います。
「負ける内容じゃなかった」
「勝ってもおかしくなかった」
「この調子であれば次にはうまくいくだろう」
しかし22試合が終わってもその気配はあまり感じられません。
何が問題なのでしょうか?
交代出場でピッチに立った少しあと、ペナルティエリア外側の中央から左サイドに流れながらボールを受けたスモロフはパスミスを犯して「バレンシアボールのゴールキック」になりました。
一瞬「せっかくのチャンスをフイにして・・・」と僕は思ったのですが、直後にスモロフがある選手に見せたジェスチャーと、その相手だった選手の様子を見てハッとしたのです。
スモロフは左サイドでプレーするデンマーク代表FWピオネ・シストに向かって「どうして追い越して中に入って行かないんだ」ということを意味するように腕を振りながらシストを怒鳴りつけていました。
確かによく見返してみれば、もしこのシーンでシストがDFを振り切って全力のスプリントでペナルティエリアの中に侵入していたら、フリーか、もしくはフリーに限りなく近い状態でボールを受けて絶好のチャンスが生まれている可能性もある場面でした。
そして同じようなシーンはその後も2度ほど繰り返され、スモロフはそのたびに周囲へ似たようなジェスチャーを繰り返していたのです。
「こういうことだったのか」
と、僕は目が覚めたような気分になりました。
素人的な言い方かもしれませんが、これこそが今シーズンのセルタにおける問題点だったのだと僕は思ったのです。
長年感じていたモヤモヤの正体
FWに預けられたボールを受けるためにそのFWを追い越していくシーンがあまりにも少ない。
これが恐らく現在のセルタにおける最大の問題です。
例えば左サイドでデニス・スアレスとルーカス・オラサが絡んだ際に攻撃のリズムがよくなり序盤の数試合に数多くのチャンスが作れていたのはなぜか。
デニスとオラサが入れ替わりながらお互いを追い越してボールを受け、質の高いプレーをする機会を作れていたからです。
そして、今から思えばそのようなシーンを見るたびに僕の中には「やっと戻ってきた」という気持ちがあったのです。
「戻ってきた」というのは選手のことではありません。プレーのパターンのようなもののことです。
例えば2013−2014シーズンにルイス・エンリケが率いたセルタでプレーしていたラフィーニャは同じようなプレーをして評価を高めましたし、サンティ・ミナも右サイドで同様のプレーを効果的に披露してバレンシアへ移籍することになりました。
縦の突破も自力ででき、味方に預けて中に入ることもできれば味方を追い越してボールを受けることもできる。
基本と言えば基本ですが、セルタが結果を出していた時、チームはこのようなプレーの連続性に溢れていました。
こういった「味方を追い越してボールを受けてチャンスを作る」という動きがほとんど見られない、というのが僕の感じるモヤモヤした何かの正体だったことに気づいたのです。
ファンが(恐らく無意識に)求めるセルタのスタイル
セルタのホームスタジアムであるバライードスのスタンドには幅広い年齢層のファンが訪れます。
10代〜60代・70代まで、ほぼ全年齢層のファンがアボナード(年間チケット)やソシオ(株式会員)としてクラブのチケットを購入していますし、もちろん単発でチケットを購入して来場するファンも大勢います。
過去最多の年間チケット販売数を記録した2019−2020シーズンにおいて、恐らくそれらの年間チケット購入者の大多数は20代なかば以上の年齢のファンが多いでしょう。
このことが何を意味するのか。
それらのファン達の脳裏にはある一時期のセルタの姿が強烈かつ鮮明に記憶されています。
1998年〜2004年までのセルタです。
この状況においてはもはや「呪い」とも呼べる種類のものにもなってしまうのかもしれない20年前のセルタの姿を、僕たちセルタファンはいまだに忘れることができずにいます。
よく「成功体験が最も人の目を曇らせる」という意味合いの言葉を見聞きすることがありますが、セルタの場合もまさにそうです。
ジョヴァネーラやリュクサンが奪ったボールがカルピンとグスタボ・ロペス、あるいはエドゥーに渡る。
モストヴォイがフラフラとボールをもらって相手DFを背負いながら、自分を追い越していったカルピンやグスタボ・ロペスに意味不明なモーションから理解不能なパスを出す。
弾かれたと思った時、こぼれたボールをなぜか再びモストヴォイがゴールに蹴り込む。
選手が入れ替わることは多々ありましたが、20年前のセルタが見せたゴールシーンには上記のような流れが非常に多く見られました。
そして当時バライードスのスタンドで試合を見守っていた僕達は、これをセルタの必勝パターンであり、セルタのスタイルだと思いこんでこの20年の間、その幻影をずっと追い続けているのです。
しかしいつしか20年前にセルタが見せていたこれらのプレーは徐々に減っていき、2度の降格を経てほぼ失われたと言ってもいいでしょう。
そうでありながらも、20年以上セルタを見続けているファンの多くは「あの時代」をいつまで経っても忘れることができません。セルタのファンが最も幸せだった時代。セルタのファンであることを最も誇らしく思えた時代の名残から、僕達のような人種はいまだに逃れることができずにいるのです。
これこそが僕の感じる現在のセルタに対するモヤモヤの正体であり、同時に現在のチームにおける最大の問題点だと僕は思います。
全く同じスタイルのサッカーを現代に復活させることがナンセンスであり不可能であることは当然なのですが、よくよく思い返してみれば「味方を追い越してボールをもらってチャンスを作る」というプレーが今シーズンほとんど印象に残っていないことは事実です。
そしてスモロフが見せたシストへの不満とシストの様子に、現在のチームにはそのような「追い越し」の意識が希薄であることの確信を持たざるを得ないと僕は思うのです。
オスカルの求めた手駒=スモロフが起爆剤になり得るのか?
スモロフが数回に渡って不満を表した味方の動き出し。
彼自身が行おうとしたプレー。
これらが互いにフィットする時が早まれば早まるほど、セルタは現在の降格圏内から脱出することが現実的になるのではないかと僕は淡い期待を抱いています。
2018−2019シーズンはマキシ・ゴメスがいた事と、イアゴ・アスパスの驚異的な復活劇があったことでセルタはなんとか降格を回避することができました。
しかし今シーズンはマキシ・ゴメスはバレンシアに去り、アスパスも継続的に出場し続けられています。起爆剤としてチームのプレースタイルを変えることができるのは新加入の選手たち以外にいません。
もし本当にスモロフのプレースタイルをオスカルが確認し、バレンシア戦で実現できなかったような動きをチームにもたらそうと考えているのであれば、恐らく第23節のセビージャ戦でスモロフはスタメンに名を連ねるでしょう。
20年前のセルタと同様に、またしてもロシア人がセルタの攻撃を活性化させることになるのか。
そしてそのロシア人は本当にオスカル・ガルシア・ジュンジェン監督が求める人材だったのか。
明日のセビージャ戦。バライードスでの試合がその答えを導くきっかけとして注目すべき試合なのかもしれないと、僕は思っているのです。