MARCA、レアル・マドリー移籍後の久保建英を初取材
スペイン最大のスポーツ紙MARCAは、コパ・アメリカ2019に招待国として参加している日本代表の宿舎を訪問。レアル・マドリーへの完全移籍が発表されたFW久保建英を、スペインメディアとしては初めて取材しています。
MARCAはスペインのメディアで唯一日本代表の練習を取材。コパ・アメリカに参加中の日本代表チーム最年少となる久保の取材に成功としたとして久保本人のコメントをいくつか紹介しています。
レアル・マドリーへの移籍が正式発表されたことに関して
「レアル・マドリーへの移籍にとても満足しています。今のところは自分自身落ち着いていますし、今日も普通の一日だと思っていますが、とても嬉しい気分です。」
”日本のメッシ”と呼ばれることに関して
「そう呼ばれること自体は光栄ですが、メッシは次元の違う選手で僕とはレベルが異なる段階にいる選手です。僕はまだ彼と比較されるレベルではありません。他にもとても個性的な特徴を持った選手達はたくさんいますし、他の誰でもなく、僕は僕です。
この代表チームには他にも海外でプレーしている選手がいて、彼らがピッチの中でも外でもリーダーです。僕はチーム最年少ですし、自分が持っているものをピッチの中で全て表現するだけだと思っています」
コパ・アメリカに向けた日本代表にはヘタフェに所属するMF柴崎岳も招集されていますが、MARCAの取材と久保のコメントによると、久保は柴崎とはレアル・マドリーについての話は特にしていないとのこと。
「話していない」というのは恐らく「対戦した時の感覚がどうだったか」であったり、「戦術的な話=よりプロとしての話」であることを意味しているのでしょうが、MARCAはアルバロ・オルメード記者の署名入り記事の中で、「この遠征中に彼の”新しい町”について知る機会がもっとあるだろう」と記しています。
MARCAは日本代表のコパ・アメリカ2019における初戦が、ブラジル現地時間6月17日午後20時(日本時間6月18日午前8時)から、サンパウロ市のエスタジオ・モルンビーで行われること。また今回の日本代表が東京オリンピックに向けたU-23代表チームの選手が多く含まれていることも合わせて伝えています。
久保建英のスペインにおける注目度
スペイン主要メディアがレアル・マドリーの久保獲得を報道
今回のレアル・マドリーによる久保建英の獲得は、スペインの各メディア(新聞、ラジオ)によっても驚きをもって伝えられています。
MARCAとラジオ局CadenaSERがスポーツ番組「Carrusel Deportivo(カルーセル・デポルティーボ)」ほぼ同様の内容を伝えているものの真偽の程が定かではない情報として、「2019年6月1日で久保とFC東京の契約は満了しており、移籍金が発生しない」こと。そして「その情報を把握していたのはレアル・マドリーのみだった」ことを報じています。
過去の日本人選手移籍報道におけるメディアの動き
ラ・リーガには城彰二、西澤明訓、大久保嘉人、家長昭博、中村俊輔、乾貴士、柴崎岳が所属してきていますが、語弊を恐れずに言うと少なくとも中村俊輔以降の3名以外の移籍当時、大したニュースにはなりませんでした。
城彰二の場合は所属するバジャドリーの地元メディアからは彼らの内輪で「ネタのマスコット」扱いをされているのを僕は目の前で見ていましたし、西澤明訓の移籍当時もMARCA、AS、SPORT、Mundo Deportivo各紙の扱いは数行程度のもの。テレビのニュースでも軽く触れるものもあれば全く触れないものもある状態でした。
まともに報道され、「普通の移籍ニュース」として真っ当な扱いがされるようになったのは乾貴士のエイバル移籍からぐらいで、過去長きに渡ってスペインにおける日本サッカーの話題というのは「イロモノ」でしかなかったと言っても過言ではないと僕は思っています。
久保の移籍がスペインにおける日本人選手のターニングポイントになる可能性
今回のレアル・マドリーへの久保建英移籍の報道は決定から3日以上経ってもこれだけの濃度で報道されており、且つスペインの主要メディアが全てその内容を報じていること。また今回のMARCAの記事のように直接取材記者を派遣してコメントを取っている状況は、長年ラ・リーガを見続けてきた日本人ファンからするとまさに「画期的」かつ「歴史的な」風景であるように思えます。
僕はその意味で行き先がどうあれ、久保のマドリー移籍は今後スペインにおける日本人選手や日本サッカーの立ち位置を左右することになるかもしれない意義深いものであり、なおかつヨーロッパにおける日本人選手・日本サッカーの認知度や市場価値を大きく左右するターニングポイントになりうるものなのではないかと考えるのです。
気になる「移籍金ゼロ」の真相について
本当にバルサへの連帯育成金は発生しないのか?
一部にはバルサとFC東京への連帯育成金も発生しないという報道があるのですが、真偽の程と情報のソースが定かではないため、連帯育成金の有無について僕自身は疑いながら見ています。
セスク・ファブレガスのアーセナル移籍で痛い目を見ているバルサが、12歳からの2年間とはいえ自分自身の手で育て、復帰させることまで考えていた選手を育成金なしでみすみすマドリーの手に渡すことを良しとするとは考えにくいというのが僕の感想です。
しかし一方ではこうも考えられます。
FIFAの未成年選手に関する国際移籍条項への規約違反による離脱が余儀なくされていた久保のケースでは、連帯育成金の請求保護対象からは外れてしまう。したがってFC東京もその権利が得られない。
バルサとしては、バルサで確固たる戦力としては考えられない未知数な18歳の選手から提案されている「クラブのポリシーと秩序を崩す要求」は飲めない。マドリーにみすみす自分たちが育てた才能を奪われるのは癪ではあるものの、そもそも育成金の請求ができない状況であるならば目くじらを立てポリシーと秩序を崩してまで久保の復帰にこだわることはできない。
全て仮定の話であり、僕の個人的な邪推に過ぎないのですが、もしこの推測に近い状態だったのだとあえて仮定することができるのなら、マドリーが横槍から久保を獲得できたことも納得がいきます。
確かに久保がバルサ(のカンテラ)に所属していたのは11歳〜14歳までの3年間です。
しかし連帯移籍金は前提条件として「国際移籍の際に移籍保障金(いわゆる移籍金)の一部を請求できる」制度。久保は2015年にバルサを「退団」し日本に帰国してからFC東京へ「入団」しており、バルサのFIFA国際移籍規約違反の件も含めて一般的な国際移籍とはケースが異なります。
また、連帯移籍金を請求できる条件の1つには「育成元クラブとプロ契約を交わしている」ことが含まれている」ことと「満23歳になる前に国際移籍をする」ことがあります。
その意味でバルサはこの条件を満たしていません。これらの状況を鑑みると、確かにレアル・マドリーが久保の連帯育成金をバルサに支払う必要がないという話にもうなずける点が出てくるのです。
FC東京の場合
では、16歳〜18歳まで久保とプロ契約を結んでいる(いた?になる可能性も)FC東京の場合はどうなのか?という部分を考えてみます。
連帯移籍金の条件については以前に執筆した記事「【セルタ】今シーズンオフに史上最高額の投資を行う可能性。」
でも書きましたが、
12歳〜15歳までの場合 | 所属期間1年につき0.25% |
16歳〜23歳までの場合 | 所属期間1年につき0.5% |
と定められています。
つまり久保の場合は「16歳〜23歳までの場合=所属期間1年につき移籍金の0.5%」に該当することになるので、もし仮にこの先久保がレアル・マドリーから他のクラブへ「満23歳を迎える前に」移籍する場合には、その際の移籍金のうち0.5%×3年分=1.5%をFC東京が請求できる権利があると考えられます。
噂が事実だとすれば、この移籍劇の本当の「勝者」は・・・?
東京の立場に立って考えると現在18歳の久保には連帯移籍金請求ができるタイムリミットがあと5年間あることになります。今回のレアル・マドリー移籍に関しては、他にもバルサやパリ・サンジェルマンなどの名前が報道の中で登場しており、少なくとも「現時点での伸びしろ」としてはヨーロッパの有力クラブが認めていると考えられます。
仮にレアル・マドリーのトップチームに定着ができなかったとしても、その場合には当然のことながら久保はヨーロッパの中で移籍先を探すことになるのが第一選択肢となるでしょう。
外国人枠の問題やそもそも実力的に及ばなかったなど様々なパターンは想定できますが、少なくとも満23歳までに久保が海外で移籍をすることになった場合にはFC東京として毎回連帯育成金を請求することができます。
果たしてそれが当初報道されていた「200万ユーロ(約2億4,000万円)」という移籍金の額に及ぶのかどうかは定かではありませんが、もしかするとFC東京はそこまで考慮に入れた上で一種の「ギャンブル」に出たという可能性も考えることができます。
本当にそうだとしたら、FC東京の首脳陣は大した投資家精神を持っているのではないかと僕は考えるのですが、実際にはどうだったのかがものすごく気になります。