WWDC2019が開催@6月3日
アメリカ現地時間の6月3日にアップルの年次開発者イベント「WWDC=WorldWide Developers Conference」が開催され、2019年内に市場へ投入されるアップルの新製品と新OSについての日程が発表されました。
WWDCは春や秋に行われる新製品発表会よりもデベロッパー、つまり各方面の開発者向けのイベントです。
アプリや周辺機器を含めたアップル製品を中心とした大きなエコシステムの中で事業を行う人達にとって、このWWDCで発表される内容がその年の製品やアプリ開発の目標に繋がります。
つまりアプリなどの開発社や周辺機器メーカーにとっても非常に重要なイベントです。
毎年6月に行われるWWDCではMacやiPhoneに搭載される新しいOSに関する新情報や技術情報が中心に発表されます。
このChemaLogでも以前「アップルが2019年に発表する新製品の噂5つ」という記事で、WWDCも含めて2019年に発表されると噂されるアップルの新製品について書きました。
各方面から仕入れた僕の予想はどこまであたったのでしょうか?w
WWDCで発表された内容
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以前の記事で予想した「新型のAirPods」ではありませんでしたが、機能強化という意味で話題には出ていたので、半分当たったというところでしょうか?
OS関連の発表は予想通り。
新しいミュージックアプリも予想通りでした。
とはいえ、ここ数年でアップルのリーク情報はリークされた時点で信憑性が高いものが多くなっています。
あまり「予想」という言葉に重みが無くなって来ていますね。
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僕が注目していた上記3つのOSのリリースは今秋。
毎年iOSとmacOSは新型iPhoneの発売とほぼ同時期にリリースされてきているので、リリーススケジュールも例年通りといったところでしょう。
大きな驚きだった新OS「iPadOS」の発表
僕は南米にいるので、WWDCが行われたサンフランシスコとの時差は2時間しかありません。
そのためリアルタイムでWWDCの基調講演を見ることができたのですが、iPadOSが発表された瞬間のどよめきは大きなものでした。
iPhoneとiPadの双方で共通化されて運用されてきたiOSは、毎年新型iPhoneの発売と同時に正式に市場へ投入されiPadにも適用が可能になるというスケジュールでリリースされてきました。
WWDCでは過去数年にわたって新macOSと新iOSの新機能や改善点が発表されることが通例化していたので、今年のWWDCでもそれは変わらないということは誰もがわかっていたのですが、まさかここでiPad専用のOSとしてiPadOSがリリースされるとは多くの人にとって予想外だったことがわかります。
iPhoneとiPadで共通化されたOSとはいっても、iPadで運用されるiOSでは例えば「計算機」アプリが入っていないなど細かいところでiPhoneでのiOSとは若干の差別化が図られていました。
とはいえ基本的なUI=見た目はiPhoneでもiPadでも一緒で、使い心地や操作方法も基本的には変わりません。
だからこそiPhoneとiPadは双方に上手く連携できる便利なコンビとしてセットで持つユーザーも多かったのです。
僕はiPhoneとiPad Pro9.7インチを両方使っていますが、メモ帳アプリの共有やノートアプリの共有、連絡先や写真の共有などが本当に便利で、今の仕事や私生活でもこの2つは手放せません。
iOSとiPadOSに分かれることになるとは言っても、基本的にアップルが提供する各デバイスのOSは相互連携が取れることを前提にデザインされ作られています。
そのため、利便性という観点で言うと良くなることはあっても不便になることはないというのが僕の予想であり、WWDCのiPadOSプレゼンテーションを見ての感想です。
では具体的にiPadOSとはどんなOSで、どんなことができるようになるのでしょうか?
iPadOSの主な機能
iPad専用のOSとしてリリースされるiPadOS。独自の機能や強化される点はどんなものが予定されているのでしょうか?
発表された項目と内容を順次ご紹介していきます。
新しいiPadOSがiPadのために設計された独自の体験を実現 Appleは本日、iPadOSのプレビューを発表しました。この新しいオペレーティングシステムはiOSと同じ基盤をもとに構築され、iPadならではの体験を提供します。
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マルチタスキングの強化
「マルチタスキング」というのは簡単に言うと「複数アプリの同時起動」や「複数の作業を並行して行うことができる」という機能のこと。
難しいことを省いてめちゃくちゃ簡単に例えると、「ブラウザでネットを閲覧している最中にメールを受信したことがわかったから、今届いたメールを読みに行く」というようなことです。
この例えの場合は「ブラウザでのネット閲覧」と「メールの常時受信機能」が同時に機能していて、「ブラウザでのネット閲覧中」に「リアルタイムでメールの受信が行われ」、「届いたメールの通知をタップする」ことで「メールを読みに行くことができる」という4つの作業を同時に行うことができています。
これがマルチタスキングです。
iPadOSではこのマルチタスキングが強化されます。
現在のiPadでは「Slide Over(スライドオーバー)」という機能を使って「2つのアプリを同時に1つの画面に表示し起動しておくことができます。標準ブラウザであるSafariの上にカレンダーを同時に表示しておく、などが可能です。
しかし今は「カレンダーではなく、メールを同時に表示したい」となりメールアプリを開いてしまうと、それまで開いていたカレンダーアプリは閉じられます。再度カレンダーをSafariと同時に起動した場合、今度はメールが閉じられることになります。
これがiPadOSではSafariの上にメールとカレンダーを重ねて起動しておけるようになり、いちいち「どれかを開くためにどれかを閉じ、もとに戻る場合は改めて起動し直す」という作業が不要になります。重ねて表示・起動されているアプリはスワイプすることで切り替えが可能になるので、作業効率が大幅に向上することは間違いありません。
Slide Overと似た機能で「Split View(スプリットビュー)」がありますが、このSplit Viewは「2つのアプリを並べて表示する」という機能です。Slide Overが複数のアプリを「重ねて表示」するのに対し、Split Viewは単に画面を分割しつつ「2つのアプリを同じ画面内で同時に表示する」機能。
Twitterのタイムラインを追いかけながらメールを書く。
メモ帳を見ながらMicrosoft Wordで資料を作成する。
などの使い方ができる機能ですが、このSplit Viewも強化されます。
現在は「異なる2つのアプリ」を並べて表示するSplit Viewですが、これが「同じアプリを2つ並べることもできる」ようになります。
これは本当に画期的なことだと僕は思います。
操作に慣れるまでの時間は多少必要かもしれませんが、これで画面自体に表示できる各種条件がPCとほぼ同等になったことを意味するからです。
ホームスクリーン
iOSでは眼の前の画面に表示されるものは、単に「アプリが並んでいる状態の画面」だけでした。
iPadOSではその概念が変わり、ホーム画面に「ウィジェット」を常に表示させておくことができるようになります。
iOSのウィジェットは、カレンダーや株価、LINEの連絡先など様々な情報を表示させておくことが可能です。
新しいホームスクリーンのウィジェット機能を活用することで、iPadのホームスクリーンをPCのデスクトップのように使うことが可能になるのではないかと僕は考えています。
ファイルアプリの強化
2016年にリリースされたiOS11から実装された「ファイル」アプリは、それまで全ての物事を「アプリ基準」で考えていたiOSの中に新しい概念をもたらしたアプリでした。
iCloudやGoogle Drive、Dropboxなどと連携させたオンラインのストレージをiOSデバイスに同期させ、ファイルアプリから引き出した文書などのファイルをiPadにインストールしたWordやPaagesなどで開き編集する。
このようなことができるようになったことが「ファイル」アプリのもたらしたメリットです。
このファイルアプリが強化されます。
これまではアイコン表示とリスト表示しかできませんでしたが、iPadOSではファイルアプリ内の表示方法にmacOSなどでも馴染みのある「カラム」表示が追加されます。
カラム表示とは、例えば1つのフォルダの中身を一画面で表示するのではなく、PCの画面を3列に分けて表示しそれぞれの列に選択したフォルダなどの中身を表示させる、階層式の表示方法のことです。
カラム表示ができるということはiPadの表面上の見た目はほぼMacやPCと変わりがない状態になることを意味します。
操作方法の違いと言えば指やApple Pencilで選択・決定するか、トラックパッドやマウスを使うかということだけになります。
USBメモリなど外部物理ストレージ対応
これまでiPadも含めたiOSデバイスに外部からデータを取り込もうとする場合はiCloud経由やAirDropなどの無線接続による共有を行う以外に方法はありませんでした。
iPadOSリリース後は、ついにUSBメモリ・SDカードに対応すると発表されました。
2018年に発売されたiPad Pro11インチ&12.9インチモデルの接続・充電端子はUSB-C。
それ以外のiPad mini、iPad、iPad Airはライトニング端子なので、それぞれの端子に対応したUSBメモリやアダプターが必要ですが、iPad本体の内部容量に依存しない外部ストレージが利用可能になるということは、既存のユーザーにもメリットがあります。
なによりもメリットや選択肢の幅が広がるのは、これから購入を検討することになる新規ユーザーに対してだと僕は考えます。
マウス対応
USBメモリへの対応と同時に驚きをもって伝えられたのが「マウスへの対応」です。
どのような接続形態になるかは今後の各社開発状況次第でしょうが、iPadをマウスで操作できるようになることでますますPCライクな使い方ができるようになります。
これまでもiPadを横長にしてキーボードをつなげれば見た目上はPCのような使い方をするこができましたし、文書作成やメール作成時のタイピングにも不都合はありませんでした。
しかし操作用のデバイスが基本的に指(一部Apple Pencil)だけだったので、実際のカーソル移動や修正箇所の細かい決定などはどうしても画面を触る必要がありました。
マウスを接続して使用することができるようになるiPadOSでは、この制約から開放されて画面に手を触れずにiPadの操作を行うことができるようになるようです。
Safari
これまでiOSの標準ウェブブラウザであるSafariでは、基本的にスマートフォン向けのモバイルサイトを表示していました。iOSがiPhoneとiPadの共通OSだったことから、iPhoneとiPadで同じウェブサイトをSafariを使って表示した場合、iPadでは「iPhoneで表示したサイトを拡大」した状態での表示だったのです。
しかしiPadOSからはiPadのSafariでウェブサイトを開い場合、自動的にPC用のサイトが表示され、PC用のサイトが「iPadでの閲覧や操作に最適化」された状態で表示されます。
このため、GoogleドキュメントやWordPressなどのウェブアプリケーションがこれまで以上に快適に利用できるようになることは間違いありません。
ダウンロードマネージャーやキーボードショートカット、フォントサイズの調整やサイトごとの設定など、PCでのウェブ閲覧ではごくごく当たり前の機能がiPadでも使えるようになるのです。
テキスト編集の強化
iOS標準のテキスト機能は、必要最低限ではありましたが決して高機能で便利とは言い難いものでした。
例えば「文章を選択してコピー」「必要な場所にペースト」などの一連の操作を行うためにはタップ→長押し→選択→動作選択という少し長い操作をする必要がありました。
しかしiPadOSからはこの編集機能がより高度で簡略・高度化したものになります。
編集機能そのものが「ジェスチャー操作」に対応。
画面をタップした状態でスワイプすると選択箇所がコピーされたり、3回or4回画面をタップすると段落ごと自動で範囲選択してくれる機能が追加されます。
選択した部分を3本指でつまむとカット。そのまま移動してつまんだ3本指を離す動作を行うと指定した場所にペーストができます。
これら操作の取り消しも3本指で左にスワイプすれば可能になるため、これまでのように誤操作をするたびにデバイスをシェイク(振る)する必要がなくなりますw
Apple Pencilがさらに快適に
iPad各機種専用の手書き用デバイス・Apple Pencilも強化が図られます。
現在のApple Pencilは「20ms=20ミリ秒=0.02秒」というレイテンシーで動作しますが、これが「9ms=9ミリ秒=0.009秒」にまで短縮されるとのこと。
「レイテンシー」というのはデジタル機器における反応遅延のことを言います。
例えば、これまでは「あ」という文字をApple PencilでiPadに手書きする場合、ペン先が画面に触れてから0.02秒後に描画が始まっていたものが、iPadOSでは0.009秒後には描画が始まるということを意味します。
0.02秒後だったとしても体感的にはほぼゼロに近いのですが、遅延が0.009秒になることで紙に直接書いているのとますます変わらない感覚で手書きを行うことができるようになるでしょう。
ペンの種類や色を変更するためのツールパレットも一新され、ツールパレットそのものを移動できるようになったり、設置場所を変えることによって隠すことができるようになります。
また開発者向けとしては「PencilKit API」が提供されることになるため、手書き用の新しいアプリなどがサードパーティにより開発されApp Storeで配信・販売される可能性も出てきました。
キーボードの強化・改善
iPad標準のソフトウェアキーボードも機能が強化・改善されます。
これまでは画面下部に固定表示されるだけだった巨大なソフトウェアキーボードは、2本指でつまむことで縮小化することが可能になります。
縮小したソフトウェアキーボードはそのまま場所を移動させ画面上の別の場所へ設置しておくことが可能になるので、作業スペースをより多く取ることができるようになるとのこと。
入力方式に関しても強化・改善が発表されました。iPhoneの日本語キーボードでは既におなじみのフリック入力に近い「QuickPath」が他言語のキーボードでも実装されるとのこと。
「QuickPath」はキーボードを指でなぞりながら連続してアルファベットを入力できるとされる機能。プレゼンテーションを見た限りでは具体的にどうなっているのかが少しわかりにくかったのですが、例えば英字キーボードでの入力であってもいちいち指を離して入力しなくても済むようになるのは利便性が高いと言えるでしょう。
Sidecar=iPadをMacのサブディスプレイ化
WWDC開幕以前からの噂では、アップルがiPadをMacのサブディスプレイとして使用できるようにするデフォルト機能を開発していると言われていました。
特にMacBook系を使っているユーザーには非常に嬉しい機能です。
ノート型PCの場合はデスクトップ型に比べるとどうしても作業スペースが狭くなりがちです。
その狭い作業スペースを広げるためにiPadを活用できるようにするための機能がこの「Sidecar」。
MacとiPadを無線or有線で接続し、iPadを拡張ディスプレイやミラーリングディスプレイとして使用できるようになります。
同様の機能を実現するため「Luna Display」などのサードパーティアプリが既に存在しますが、SidecarはOS付属のアップルによる純正機能。
サードパーティによるアプリは有料、かつ接続用のレシーバーを購入する必要もあるなど手間がかかることもありましたが、標準機能としてのiPadサブディスプレイ化が可能になるのは作業効率を大幅にアップさせてくれるでしょう。
Project Catalyst
Project Catalystは完全に開発者向けの機能ですが、このProject Catalystにより開発者はiPad向けのアプリをMac向けに簡単にコンバートすることが可能。
これまでiPad向けにリリースされてきた人気アプリや人気ゲームなどがMacでも使用・プレイすることができるようになります。
iPadOSのメリット
個人的な印象としては、iPadOSは「作業環境の改善と拡張・強化」がコンセプトのように感じます。
ホームスクリーンへのウィジェットエリア表示機能はiPadを起動した際にいつでもすぐに目に入りますから、日常生活などで必要な情報(ニュースサイトのインデックスや株価、メール通知など)を設定しておけばいちいちアプリ単体を開く手間から開放されます。
ファイルのカラム表示やUSBメモリ・SDカード等外部機器接続への対応は、ファイルを探す時間の短縮になりますしカメラやUSBメモリ、SDカードなどから直接データを取り込むことができるためファイル管理や転送の手間が省けます。
Safariの機能強化は、これまでだと必要に応じてPC版のブラウザなどで行う必要のあった画像やフォントのダウンロードをiPadで直接行えるようになるため、PCとiPadの接続などを気にすること無くワンストップでできる作業が増えることを意味します。
Sidecarはイラスト、文書作成、資料閲覧などあらゆる場面でiPadの登場シーンを増やすことになるでしょう。
このように、iPadOSがリリースされiOSから分離されることによる現時点でのデメリットは皆無と言ってよく、メリットしかないと僕は考えています。
どんな人にオススメ?対応機種は?
iPadOSをインストールすべきユーザーはどんな人でしょうか?
そう聞かれたとしたら、僕は迷わず「全員」だと答えると思います。
少なくとも現時点ではインストールをためらう必要がありません。
iPadOSはiOSをベースに作られているSOであるため、同時にリリース開始となる予定のiOS13が備える新機能も全て使用することができ、さらにこの記事でご紹介した新機能をも使うことができる「いいとこ取り」のOSです。
対応機種はiPad Air2以降の全モデル。そして第5世代以降のiPad、iPad mini4以降のiPad miniとなっており、iOS12がトラブル無く動作する機種であれば問題なく動作すると言われています。
動作の快適さを求める場合は2016年以降のiPad Pro。2017年以降のiPad mini、そして2018年以降のiPadを選択したほうがより快適にiPadOSを使うことができるのではないでしょうか。
大学生にとってより選択肢を広げてくれるiPadOS
以前の記事「iPadが大学生にオススメな5つの理由」でも書いた通り、僕は大学生がiPadを使用することをオススメしています。
しかし本体容量の大小によって価格帯が大きく変わるため、大学生が購入を考える時にとても悩むことが想像できます。
しかし今回発表され恐らく今年の秋(9月〜10月)にリリースされるiPadOSはその悩みを少し和らげてくれる可能性に満ちています。
大きな理由は「外部ストレージへの対応」です。
写真や動画を扱うことが増えている昨今では、例えばiPadの最小容量32GBではすぐにデータがいっぱいになってしまう可能性もあります。
しかしUSBメモリーやSDカードの利用が可能になるiPadOSをインストールすれば、最小容量の機種だったとしても、USBメモリーやSDカードを利用することで実質的に使える容量が2倍にも3倍にも拡張できます。
今後登場するであろうiPad各機種対応の外部メモリーや外部ストレージがどの程度の価格になるのかはわかりません。
しかし既存の外部メモリーや外部ストレージをiPadOS搭載のiPadに接続できるようにするアダプターの発売なども十分考えられます。
そうなれば現在持っているものを無駄にすることなく、iPad本体の購入金額を抑えながらも最新の機能を利用できるという環境が手に入ることになるのです。
一時期は「タブレットの市場は縮小する」とも言われていましたが、今回のWWDCにおけるiPadOSの発表を見て、僕はむしろ「iPad自体の存在価値はこれからさらに高まるのではないか」と強く思うようになりました。
これからも新情報がリリースされる可能性があるiPadOS。
今秋のリリースを首を長くして待っていきたいと思います。