センターバックの組み合わせに悩むフラン・エスクリバ
毎年恒例となっている、バライードスでのお披露目試合も兼ねたプレシーズンマッチ、メモリアル・キノーチョを終えたセルタ・デ・ビーゴのフラン・エスクリバ監督は更に悩みを深めています。
イタリアのラツィオと対戦し1−2で破れたセルタ。
結果はともかく、この試合が残したものは結局引き続き同じ悩みでした。
「誰がセンターバックの第1選択肢となるのか」
というプレシーズン合宿当初からの悩みは、ラツィオ戦を行ったことにより深まってしまったように思えてきます。
アラウホとアイドゥー
メキシコ代表DFネストル・アラウホとガーナ代表DFジョセフ・アイドゥーの2名は、それぞれ北中米カリブ海の大陸選手権ゴールドカップ、そしてアフリカ大陸選手権であるアフリカ・カップ・オブ・ネーションズに参加しており、プレシーズン合宿への合流が一番最後になっていました。
当初の予測ではアラウホとアイドゥーが実績と実力的には第1選択肢となる可能性が高いと見られていましたが、フラン・エスクリバ監督としてはラツィオ戦のアイドゥーの出来には満足していない様子です。
ラツィオ戦を無失点で抑えるようなことができていれば、ひとまずは開幕戦のセンターバックコンビはアラウホとアイドゥーになる可能性が高かったのだろうとは予想できますが、アイドゥーは当初の予測よりも不安定な部分を露呈。
チーム合流から2週間前後しかたっていないという事実が改めて浮き彫りになってしまっている様子です。
フラン・エスクリバはプレシーズンマッチにおいてダビ・コスタス、ネストル・アラウホ、ホルヘ・サエンス、ジョセフ・アイドゥーの4人全員に出場機会を与え、様々な組み合わせを試してきました。
しかし開幕まであと2日に迫った現時点でも最善の組み合わせはまだ確定していません。
オカイ・ヨクスルの負傷も影響
プレシーズンマッチ初戦のデポルティーボ・ルーゴ戦でセンターバックの先発コンビとして出場したダビ・コスタスとホルヘ・サエンスの組み合わせはセルタファンに新鮮な驚きをもたらすものでした。
ホルヘ・サエンスが攻撃への組み立てに参加できることの発見と思った以上に対人に強く安定した守備。ここ数年後方からの組み立てに難を抱えていたセルタとしては攻撃の組み立てに参加できるセンターバックはとても貴重で、こうした選手がいるということはデニス・スアレスやサンティ・ミナ、そしてイアゴ・アスパスという攻撃をひっぱる3人の才能を最大限活かせる可能性が生まれることになります。
実際にフラン・エスクリバはセンターバックの組み合わせと並行してデニス・スアレスを左サイドの守備負担から開放できるようなセントラルMFの構成にも頭を悩ませており、この悩みの理由がトルコ代表MFオカイ・ヨクスルの負傷離脱です。
開幕後もしばらく復帰の目処がたっていないオカイの不在は、フラン・ベルトランやホサベ・サンチェスにある程度のチャンスを与えることにはなったものの、この2名もまだ若干の不安定さを見せるところは変わっておらず、特に守備から攻撃に転じる際のボールロストが多いことがプレシーズンマッチで非常に気になるポイントでした。
スロヴァキア代表MFスタニスラフ・ロボツカは結果的にチームに残留することになり、実力と安定性からいってもロボツカを外すことは現状のセルタでは考えられず、とはいえディフェンス面でロボツカよりも圧倒的に優れているわけではないベルトランやホサベでは中盤の守備力に弱点をわざわざ作ることになりかねません。
苦肉の策であるホルヘ・サエンスの中盤起用
ドイツ遠征でウニオン・ベルリンと対戦した際にフラン・エスクリバが試した「苦肉の策」とも言えるのがホルヘ・サエンスのセントラルMF起用です。
正確なパスとセンターバックが本職であることを活かした守備力を、一列前で使おうという意図を持って行われたこの布陣は、傍から見ているぶんにはそこそこいいアイディアなのではないかとある程度納得のできる起用法ではあります。
ただしプレシーズンマッチと本番のリーグ戦ではやはり勝手が違うのは間違いありません。
サエンスの中盤起用をリーグ戦で行うというのはほぼ「ぶっつけ本番」に近い意味合いがあり、開幕からの3試合がレアル・マドリー、バレンシア、そしてセビージャという強豪チーム続きであることを考えると、果たしてここにサエンスの中盤起用が通用するのかどうかが全く未知数です。
その不安を払拭できるような実力を示してくれれば儲けものではありますが、逆にここでうまく行かない場合はサエンスにとってもチームにとっても混乱を招くことに繋がりかねません。
パペ・シェイクの緊急復帰
セルタの経営陣とフラン・エスクリバが選択したのはセルタのカンテラで育ち、2017年にフランスのオリンピック・リヨンに移籍していたセネガル出身MFパペ・シェイク・ディオプの復帰でした。
14歳の時にスペインに移住しておりスペイン国籍も保有し、年代別のスペイン代表に選出されてプレー経験もあるパペ・シェイクはセルタのスタイルには慣れ親しんでおり、現在10名いるトップチームのカンテラ出身選手ほとんどとも顔見知りです。
レンタルではあるものの買取オプションが付帯していることから、今シーズンの活躍次第では来シーズン以降に改めてセルタでプレーすることも可能性としてゼロではないでしょう。
なによりパペ・シェイクは本職のMFであり、パペ・シェイクがセントラルMFとしてロボツカと中盤を構成することができるとなれば、センターバックには本職であるホルヘ・サエンスを起用することができるようになります。
一見すると「緊急の出費」には見えるこのレンタルによるパペ・シェイク獲得ですが、エスパニョールのFWボルハ・イグレシアスがベティスに移籍したことにより、イグレシアスがセルタに在籍していたこととイグレシアスの移籍の際にセルタとエスパニョールの間でかわされていた契約条項によって国内移籍であるにも関わらず、ベティスがエスパニョールに支払う移籍金の一部がセルタにも支払われることが決まっています。
同じタイミングでボルハ・イグレシアスの移籍とパペ・シェイクのレンタル獲得が成立していることを考えれば、おそらくセルタの経営陣はイグレシアスの移籍動向を見ながら、その動き次第でパペ・シェイクの獲得に動くつもりだったことは想像できます。
冬の移籍マーケットで誰かが放出される、あるいは誰かを獲得する必要に迫られることを考えると今のタイミングで完全移籍による移籍金を発生させるよりは、シーズン終了後に判断できる買取オプション付きのレンタル移籍でパペ・シェイクを復帰させたのは良い判断だと言えるのではないでしょうか。
とはいえ、こういう事態に備える意図があったのかどうかはともかく、国内移籍にも関わらずセルタの経営陣がボルハ・イグレシアスの売却に際して将来的な移籍金の一部受け取りという権利を盛り込んでいた目の付け所にはセルタファンながら称賛せざるを得ないと思います。
まさに「備えあれば憂いなし」という言葉そのものではないでしょうか。
今シーズンのセルタは例年になくこれまで行ってきた投資的な活動が芽吹きつつある印象を受けます。
これが「結果」という形になって現れてくれれば言うことはないのですが、果たしてどのような展開が待ち受けているのでしょうか。
順風満帆に見えつつもけが人の影響で不安材料もありつつ、それでいて迅速に事態への対応ができているように見えるセルタ・デ・ビーゴ。
長いシーズンはいつでも一筋縄ではいかないものですが、それでも不思議なことに不安よりも期待を持ってしまう自分がいることに僕は少し驚いています。
開幕のレアル・マドリー戦でセンターバックのスタメンが誰になるのかということが、もしかするとこの先1ヶ月ぐらいのセルタの運命を決定づける布陣ということになるのかもしれません。