【セルタ】香川真司のセルタ移籍という噂に関する個人的な考察

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トルコメディアが報じたと言われる香川真司のセルタ移籍

この3〜4日間で突然降って湧いた日本代表MF香川真司のスペイン移籍のニュース。そしてその移籍先として濃厚なのがセルタ・デ・ビーゴであると報じられたため、僕はこの数日間ずっと情報の出どころを探っていました。

最終的にたどり着いた答えは「どうやらトルコのメディアが発信源らしい」ということなのですが、どうにも要領を得ない状況であることに変わりはありません。

日本のメディアがこのニュースを報じ始めたため、目に入ったものには全て目を通したのですが、情報ソースがあまりはっきりしていなかったことから僕は正直ガセネタだろうと思っていました。

ヤフー・ジャパンに記事を提供する日本のサッカーメディア「FOOTBALL CHANNNEL」は日本語での記事を掲載していますが、内容はスペインの大手スポーツ紙ASが現地時間7月28日に報じた内容を少し順番を変えたのみで全く変わりません。外国人枠に関する指摘も全く同じです。

Kagawa interesa al Celta
Televisión de Galicia y medios alemanes señalan que el internacional japonés podría recalar en Vigo. La mitad de la pasa...
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190728-00332300-footballc-socc

どうやらこの情報の発信源となったトルコメディアというのはStartv.com.trというメディアのようです。これを「Startvが報じた内容」だとして、ドイツではBild紙が引用し、更にガリシアの地方テレビ局TVG(Television de Galicia)が引用報道し、なおかつこれら前者3つの報道内容をスペインの大手スポーツ紙ASが更に更に引用したというのが真相のようなのです。

遠く離れたヨーロッパの移籍情報を日本で事細かに報じることは現実論として困難ですから、日本のメディアは海外の移籍情報などを手に入れるために、ある程度現地のメディア情報をソースに使っています。そしてそれらの情報ソースは各国で契約している通信社やジャーナリストによって、一定レベルのフィルターがかけられて提供されるのが一般的だというのが僕の理解です。

地元紙はこのニュースを報じているのか?

そして今日に至るまで、日本のメディアが報じる香川のセルタ移籍という噂に関する情報ソースにはスペインのメディアが含まれていませんでした。

少なくとも、通常であればセルタの移籍情報や噂をいち早く報じることが圧倒的に多いビーゴの地元紙FARO DE VIGOや、ア・コルーニャに本社を置くガリシアの地方紙La Voz de Galiciaはこのニュースを一切報じていませんでしたし、7月28日現在でもそれは変わりません。

ところが今日になってTwitterでセルタの情報を発信する老舗アカウントMundo Celesteが、7月27日に行われたプレシーズンマッチのリール戦後に行われた記者会見において、フラン・エスクリバ監督のコメントの一部として次のような投稿を行いました。

試合前にここへ来るバスの中で、携帯でそのニュースは見た。しかし、その件について私は一切何も知らない。

というのがエスクリバ監督のコメントとして紹介されています。

ここで重要なのは、このツイートが「リール戦に関する質疑応答の中のごく一部」であるということ。そして「試合に向かうバスの中で携帯をいじっている最中にニュースを見た」というエスクリバの言葉です。

真偽の程とセルタを取り巻く現状

仮に「バスの中でニュースを見た」という言葉が真実だったとしましょう。

もしそうだとすると、これはどう考えても僕には不自然に思えます。

このオフシーズンの間、セルタの経営陣とフラン・エスクリバは昨シーズン後半のエスクリバ就任以降よりも更に綿密なミーティングを重ね、2019−2020シーズンに向けたチーム構築のために必要な選手のリストアップと優先順位について話し合いを続けてきました。

中盤のビルドアップと縦への展開力。そして安定性を求めていたからこそのデニス・スアレス獲得であり、前線での流動性を高めて効率的なゴール奪取を目指そうとしているからこそのサンティ・ミナ獲得であり、流動性が確保出来なかった時に前線でボールを収めることが必要な場合に備えてのガブリエル・フェルナンデス獲得でした。

その意味で目的とする必要な選手達の獲得はすでに完了し、フェリペ・ミニャンブレスSDもフラン・エスクリバ監督も「あとは数人の選手の放出と売却が必要な状況だ」という趣旨のコメントを残しています。

その「数人の選手」の筆頭として元トルコ代表MFエムレ・モルが挙げられており、先日の記事「【セルタ】クラブ史上最高額の移籍金で獲得されたのは、あの男。」でも指摘した通り、彼はセルタの歴史上2番目に高い1300万ユーロの移籍金を投じて獲得した選手です。

【セルタ】クラブ史上最高額の移籍金で獲得されたのは、あの男。
これだけの選手達を補強した今シーズンでも、セルタのクラブ史上最高額となる移籍金記録を持っているのは「あの男」のようです。久しぶりにカモメのことでも考えみましょう。

しかしこの2年間エムレ・モルはほとんどプレーしておらず、移籍金の支払額と給与をあわせてここまでの貢献度と照らし合わせればどこからどう見ても赤字です。

その赤字を解消するためになんとかして放出先を見つけようとしているのが、今のセルタの現状であるということは前提として考える必要があります。

そもそもセルタは、財政健全化が進んでいるとはいえ総額82億円の債務超過と累積赤字を解消しようとしている段階の最中であり、経営面では安定性と確実性、そして「場合によって」将来性のある投資が求められている状況です。

デニス・スアレスが25歳。サンティ・ミナが22歳。そしてガブリエル・”トロ”・フェルナンデスが25歳。

財政が健全化する中でそれぞれが今後も成長し、いざというときには移籍金を手土産として放出・売却も考えられる年齢とポテンシャルを秘めた選手達です。

またセルタのカルロス・モウリーニョ会長は13年前の就任以来一貫して「ガリシア人によるカンテラ主義」をクラブとして標榜しており、事実トップチームには年々ガリシア出身かつセルタのカンテラ出身者を増やしている状況があります。

「外国人枠の問題」とは?

その中で突然30歳のスペイン語を話せない日本人選手を事前に監督との打ち合わせもないまま獲得するのでしょうか?

こう述べていることの意図するところは、「日本人だからいらない」ということではありません。

スペイン「ラ・リーガ・サンタンデール」においては、EU圏外選手の試合出場は3人までというルールが存在します。

そして現在のセルタにおいてこの3人の枠に該当する選手がメキシコ代表DFネストル・アラウホ、ウルグアイ人DFルーカス・オラサ、そしてウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスです。

オラサは左サイドバックのレギュラー。

アラウホはセンターバックのレギュラー最有力候補。

「9番」タイプのセンターフォワードであるトロ・フェルナンデスはFWとしてイアゴ・アスパス、サンティ・ミナに次いで3番手であると同時に状況次第ではレギュラー候補の最有力。

まず第一に3人のEU圏外選手の枠がすでに埋まっており、直近でこの3名にEUパスポートの取得予定はありません。

スペインにおいてEUブルーカードに該当する居住権を取得するためには労働許可を伴う5年以上の継続した在住が必要要件とされており、アラウホ、オラサ、フェルナンデスの3名はこの条件を満たしていないため申請することは現時点では考えられません。

「香川はヨーロッパでのプレーが長いから大丈夫なのではないか」

とのネット上での書き込みが国内外問わずいくつか見られるようですが、これは完全に認識の間違いだと言えるでしょう。

日本人の二重国籍問題

少し前に日本において政治家の二重国籍問題が論じられた時に報じられたことですが、日本は自国民の二重国籍を認めていません。もし日本人が他国の国籍を取得した場合は日本において日本国籍の離脱手続きを行うことが求められ、実施すれば日本人としての権利と資格を失います。

もし仮に香川がEU加盟国いずれかのパスポートを取得=国籍を取得するとなった場合、これは明確に二重国籍に該当することになりますし、上記の国籍離脱手続きを行うことになるため、それと同時にサッカー日本代表としての資格を失います。

さらにFIFAが規定する二重国籍選手のA代表選出・出場規定にも抵触することになるため、香川がEU加盟国いずれかのパスポートを取得「していた」としても、今後サッカーの代表選手としてはどこの国からも選出・試合出場は不可能になり、国内リーグ戦以外でのプレーが不可能になることを意味します。

そもそもドイツ、イングランド、トルコのいずれの国においても5年以上の「労働許可を伴う居住」を達成していない香川も、現時点でスペインの国籍取得を行う資格が得られていないのでこの議論そのものが意味をなさないのですが、香川本人も「日本人であること」を投げ捨ててまでセルタでプレーする必要性が果たしてあるのだろうか?という疑問を僕は個人的に持ってしまいます。

仮に35歳で引退するとして、平均的に80歳前後まで寿命がある日本人男性の場合、残りの45年間をスペインもしくはEU加盟国のどこかの国籍を持つ人間として過ごしていく覚悟をすでに持っているなら話は別ですが、よほどのことがない限り日本人でそんな望みを持っている人は多くはないでしょう。

そしてEU圏外登録枠の問題以外にも、1500万ユーロと一部で言われている香川の移籍金を支払う余裕がセルタにあるのかどうかも僕は非常に疑問を持たざるを得ません。

セルタの財政状況と過去の経営&チーム状態

すでにセルタはサンティ・ミナの移籍金として1500万ユーロを計上しており、デニス・スアレスの移籍金における確定支払い分も1290万ユーロが計上されています。この合計2790万ユーロの確定支払い分に加えて、デニス・スアレスの移籍に関しては出来高ボーナスとして310万ユーロが追加でバルサに支払われる可能性も残されています。

マキシ・ゴメスの移籍に関するバレンシアからセルタへの支払いとして合意に達した金額が3000万ユーロですから、サンティ・ミナとデニス・スアレスの移籍金支払いはマキシ・ゴメス移籍でバレンシアから支払われる3000万ユーロで相殺されることになります。

加えて、マキシ・ゴメス獲得の際にマキシ・ゴメスの元保有クラブであるウルグアイのデフェンソール・スポルティングへ連帯育成金として移籍金の20%を支払うことになっていますから、実質的には2019−2020シーズンの主力候補として獲得した2名の移籍を実施したことにより、少額の収支赤字だとも言えるわけです。

さらに追加で香川のために(もし本当だとすれば)1500万ユーロを捻出するだけの経済力がセルタにあるのでしょうか?恐らくないでしょう。

もしそうだとしても本当にセルタが香川を獲得するというこの噂が真実になるのであれば、セルタはクラブとして再び経済的なギャンブルに出たことを意味します。

そして一貫して僕が言い続けているように、セルタは「欧州の中堅強豪クラブ」などではなく、ただの「スペインにおける弱小地方クラブその他大勢の1つ」でしかありません。

様々な要因が偶然積み重なり、ほうほうの体で17位にたどり着いて息も絶え絶えに残留を果たすようなクラブでプレーすることが、本当に香川のキャリアにプラスになるのでしょうか?

語学の問題も含めてネガティブな要素が多いのではないか

30歳でベティスに移籍した乾貴士に何が起きたのかを思い起こしてみれば、香川のキャリアにとってはこの移籍が成立したとしてもあまりにギャンブル性が高く、なおかつ「なにか重要なものを失うリスク」が大きいのではないかと心配になります。

乾は幸いにも3年間エイバルで結果を残していたという実績がありましたし、そのおかげでこのオフシーズンにエイバルへ「復帰」することができました。香川の場合はスペインでプレーしたことがありませんし、以前執筆したいくつかの記事でも指摘したようにスペイン語を全く知らない状態でラ・リーガに飛び込むのはキャリア的にあまりにもリスクが大きいと僕は考えます。

【ラ・リーガ】過去と現在から久保建英の語学力が持つ「可能性」を考える
レアル・マドリーに移籍した久保建英のスペイン語力が国内外で注目されています。彼のスペイン語力はどんなレベルなのでしょうか?過去の日本人選手が直面した問題と合わせて個人的に考察しました。
【エイバル】日本代表MF乾貴士、霧雨けむるイプルーアへの帰還。
日本代表MF乾貴士が1年ぶりにエイバルへ復帰することが決まりました。ベティスからエイバル復帰を決めた乾を取り巻いてきた環境と復帰のメリットについて考えてみました。

ASは香川のことを「日本代表のトップ下でプレーする選手」と紹介していますが(認識の相違である可能性は否定できませんが)、現在のセルタはトップ下戦術を採用していません。

セルタが7月20日と27日に行ったルーゴ戦とリール戦という2試合のプレシーズンマッチにおいて、セルタは今シーズンどんなチームを作り上げようとしているのかをある程度ファンに示しました。そしてルーゴ戦とリール戦を見比べた場合、明らかにリール戦でチームが仕上がりつつある段階にあることがわかっています。

すでに方向性が定まりつつあり、「最終的にどう仕上げていくのか」を模索している最中のチームに入っていくことは、どんな選手でも簡単なことではないはずです。

事実をこうして並べてみると、僕にはどうしても香川のセルタ移籍という話が現実味を帯びた話には思えず、現実になるのだとしたら僕はセルタの経営陣の頭の中身を疑わざるを得ません。

現在のセルタに必要な選手がいるとすれば、それは左サイドバックとセンターバックのバックアッパーであり、中盤を引き締めることができるセントラルMFであるはずです。

果たしてこの噂は現実になるのか、それとも噂のままそのうち忘れ去られていくことになるのか。

半信半疑ならぬ「一信九疑」ぐらいで僕は見ているのですが、今後も噂が続くようならもう少し追いかけてみようと僕は思っています。

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