538分間得点無しのイアゴ・アスパス
セルタ・デ・ビーゴのスペイン代表FWイアゴ・アスパスの今シーズンは、2015年にセルタへ復帰して以来ワースト2位となる内容のスタートとなっています。
ラ・リーガ・サンタンデール2019−2020シーズンはここまで6節を終え、アディショナルタイムを除いた時間としては540分間プレーされていますが、ここまでの6試合でアスパスはゴールを上げておらず、無得点時間はここまで538分間になっています。
これは2015−2016シーズンにアスパスがセルタに復帰して以来2番目に悪い結果となっていて、2017−2018シーズンに第3節アトレティコ・マドリー戦で得点した後、第8節のラス・パルマス戦でハットトリックを決めるまでの630分間ノーゴールだった時以来の無得点時間です。
アスパスは調子を落としているのか?
では、この「538分間無得点」という事実はそれイコール「アスパスが調子を落としている」ということなのでしょうか?
32歳という年齢を考慮すれば確かに過去4シーズンほどの動きを見せ続けることは難しいのかもしれません。
ただし無得点時間=アスパスの調子、という言い方はできないというのも過去の実績からすると明らかです。
アスパスは2016−2017シーズン、2017−2018シーズン、そして2018−2019シーズンと3年連続で「スペイン人最高得点者賞」である「サラ賞」を受賞しています。
そして630分間無得点が続いた2017−2018シーズンにも、上記の通りアスパスは最終的にスペイン人選手としてラ・リーガで最もゴールをあげた選手(29試合21ゴール)になっているのです。
2018−2019シーズン後半戦の神がかり的な爆発力が印象に残っているため「試合に出ればゴールを決める」ようなイメージがセルタファンには残っているものの、過去4年間のゴールアベレージを見てみると、
2015−2016シーズン | 0.45(40試合18ゴール) |
2016−2017シーズン | 0.53(49試合26ゴール) ※ヨーロッパリーグ含む |
2017−2018シーズン | 0.62(37試合23ゴール) |
2018−2019シーズン | 0.72(29試合21ゴール) |
となっていて、冷静に考えてみれば「2試合に1点決めればいいほう」ということがわかります。
そう考えると2004年以降の15年間トータルでのゴールアベレージが0.87であるリオネル・メッシがいかに常軌を逸した存在なのかがよくわかるわけですが(過去8シーズン中5シーズンが1試合1点以上のアベレージ)、もちろんメッシとアスパスを比較すること自体が意味のないことなのでメッシの話を持ち出すのは別の問題です。
もともとアスパスは比較的スロースターターとも言えるような選手ですし、今シーズンは攻撃陣の陣容も変わっていてセルタもチームとしてのゴール数が6試合で4ゴール。
チーム全体での得点パターンがまだ固まっていないとも言える状況なので、538分間アスパスがノーゴールであることがそのままアスパスの調子の良し悪しであるとは言い切れません。
むしろチームとしての得点数自体が少ない中ではアスパスのゴール数も伸びるはずがなく、セルタもアスパスも攻撃面ではくすぶっており改善の余地がまだまだ残されているということの現れでもあると言えるでしょう。
セルタとアスパスの調子は上がっていくのか?
もっとも、セルタが攻撃面で魅力的な姿を披露していたのは15年前までの話であり、この20年間セルタを見てきている立場としては今シーズンのセルタに15年前までの姿に似たものを取り戻せる可能性は感じながらも、仮に今シーズン攻撃面で改善がなされたとしてもそれは過去の姿とは全く別の種類のものになるはずだという確信があります。
懐古主義的な何かを振りかざすつもりは毛頭ないのですが、現在のセルタが攻撃面でより効果的なプレーを展開するためにはデニス・スアレスとサンティ・ミナ。そしてブライス・メンデスかラフィーニャ、あるいはフラン・ベルトランのような選手がより精力的に縦横に動きつつ、アスパスがゴールへ向かって動き出せる攻撃パターンを確立していく必要があるだろうと僕は思っています。
ここまでの6試合を見ている限りでは現在のセルタに「攻撃の型」のような物を感じることができません。
恐らくこれには理由があり、その理由は「まず失点をしないこと」がフラン・エスクリバ監督、ひいてはクラブとしての優先事項になっているからではないでしょうか。
しつこいようですが今シーズンのセルタにおけるクラブとしての優先目標は「プリメーラ残留」です。
「ヨーロッパリーグ出場権獲得」でもなければ、「チャンピオンズリーグ出場権獲得」でもなく、ましてや「リーグ優勝」や「コパ・デル・レイ優勝」でもありません。
現在のセルタが取り組まなければならないのは、安定してプリメーラ・ディビシオンに残留し、今後数年間以上安定してプリメーラ残留以上の結果を残せるクラブの体制とチーム作りです。
それができない場合にどうなるのか、ということは過去13年間でクラブもファンも嫌というほど思い知っている話であり、そうならないことを第一に考えれば正直に言ってアスパスの調子がどうであろうと彼がゴールを何分決めずにいようと、はっきり言って「どうでもいい話」であるというのが僕の個人的な意見です。
もちろん僕個人としてはアスパスがポンポンとゴールを決め、数年後に「セルタ史上最高のストライカー」という評価とともに引退し、笑顔でバライードスのピッチを去っていくのであればそれはそれで喜ばしい気持ちになることは間違いありません。
しかしいくらアスパスが30点、40点を仮に決めたとしても、彼が引退する時にセルタがセグンダAに降格し、なおかつ再び巨額の負債を背負うような状況になっていたとしたら、それは悲劇以外の何物でもありません。
実力と実績を兼ね備えた良質な選手を望外に揃えることに成功した今シーズンのセルタを評して、スペイン国内外で「今シーズンのセルタはヨーロッパリーグ出場権以上を狙えるのでは」というような声は確かに上がっていますが、何度も言うようにそんなことはどうでもいいことで、僕は個人的に「それよりももっと手堅く残留できる体制づくりが先」だと思っています。
仮定の話をしても仕方がないことですが、もし仮に本当に今シーズン終了時に7位や6位になっていた場合、可能性としてサンティ・ミナやデニス・スアレスは再び移籍していく可能性があることを僕は否定できません。
カルロス・モウリーニョ会長としてもそう簡単に再び彼らカンテラ出身選手達を手放すことを望んではいないはずですが、ビジネスマンとしての眼力も兼ね備え、クラブのより大きな発展と安定を目標に掲げるモウリーニョであれば、移籍金と利益の兼ね合いを見た上でバランスが良ければ恐らく躊躇なくミナやデニスを売却する決断をするでしょう。
つまり、今シーズンのセルタは確かにロマンを抱えたチームたり得ていますが、一方でそれすら今シーズンのみの一過性で終わる可能性を持った泡沫的なチームであるとも僕は考えています。
このように考えてみると、今アスパスの調子が良かろうが悪かろうがそれは大した問題ではなく、そしてそれは「調子が悪くても構わない」ということではなく「チーム全体として調子を上げていかないことには未来がない」ということを意味します。
素晴らしい選手を揃えていようがいまいが最悪の事態というのはいつでも起こり得る話であり、セルタファンは2003−2004シーズンに既にそれを経験しています。
現地ビーゴでも今年のチームに対する期待値が大きいのは事実ですが、セルタを取り巻く人々は似た状況にあった16年前に何が起きたのかをもう一度振り返って気を引き締めるべきなのかもしれません。