セルタはプレシーズンマッチのためにドイツへ出発
2019年8月18日の開幕を控えたプレシーズントレーニングを行っているセルタ・デ・ビーゴ。
8月3日に行われるプレシーズンマッチ、ウニオン・ベルリン戦に向け、チームはドイツへ出発しています。
負傷中のトルコ人MFオカイ・ヨクスル、GKセルヒオ・アルバレス、ウーゴ・マージョに加えて、アルゼンチン人DFファクンド・ロンカリア、フランス人FWクラウディオ・ボーヴュはビーゴに残ることになりました。
また、ウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスに関しては2018年12月にウルグアイで起こしたひき逃げ事故の裁判に関する最終手続きが残っているため、ウルグアイへ一時帰国。裁判の手続きを終えてからチームに再合流することになっています。
ウルグアイ代表FWマキシ・ゴメスのバレンシア移籍と合わせて、オフシーズンにバレンシアからレンタルで移籍してきたDFホルヘ・サエンスが想像以上の好パフォーマンスを発揮していることと、メキシコ代表DFネストル・アラウホ、ガーナ代表ジョセフ・アイドゥーという2名の代表クラスDFを抱えていること。さらにスペイン人DFダビ・コスタスがいることから、セルタのフラン・エスクリバ監督はロンカリアを2019−2020に向けた戦力とは考えないことを決定。
前線にはスペイン代表FWイアゴ・アスパスを筆頭にサンティ・ミナ、ウルグアイ人FWガブリエル・”トロ”・フェルナンデスがいることから、ボーヴュに関しても戦力外となっているため、ロンカリアとボーヴュの2名は遠征に帯同しないことになっています。
セルタはこの2名を夏の移籍市場が終了する前に放出・売却する道を模索していますが、現在のところ具体的な移籍先の候補は決まっていません。
ロンカリアはバレンシア、ボーヴュはフランスのカーンにそれぞれ昨シーズンはレンタルされていたため給与の支払いは発生していませんが、このまま移籍先が決まらずにセルタに残留することになった場合はセルタに給与支払い義務が発生するため、セルタとしてはなんとしても完全移籍かレンタルいずれかの形でロンカリアとボーヴュの放出を実現したいところです。
エムレ・モルはイスタンブールへ到着
一方、ファンの間ではかつての韓国代表FWパク・チュヨンに並ぶ「史上最悪の移籍」という評判が定着してしまったトルコ代表FWエムレ・モルは2020年6月30日までのレンタルでトルコのガラタサライへ移籍が決まっており、昨日7月31日にイスタンブールへ到着。
空港でファンとメディアからの歓迎を受けたモルは
偉大なチームに加わることができて本当に幸せです。できるだけここでの時間が長く続くことを願っています。
テリム監督とは良い関係を持っていましたし、何より彼は私を代表に選んでくれた張本人です。偉大な監督の一人でもありますし、彼と再び共に仕事ができることを嬉しく思っています。
とメディアへコメントを残しています。
ちなみにこのコメントをモルは英語で発言したようで、これは恐らく彼自身がトルコ出身ではなくデンマーク生まれのトルコ国籍だということが影響しているのかもしれません。
ドイツ以北のヨーロッパ各国にはトルコ系移民が数多く居住しており、現在20歳〜30歳前後のトルコ系移民2世の中には、両親はトルコ語を話せるものの、自身はトルコ語を話せないという人達も多くいます。デンマーク生まれのモルは18歳で現ガラタサライ監督のファティ・テリムによってトルコ代表に選出され、EURO2016にも出場していますが、ひょっとすると彼自身はトルコ語があまり上手く話せないのかも知れません。
エムレ・モルとセルタの”これから”
モルはテリムと共にガラタサライで新たなプロジェクトに取り組むことを喜んでいるようですが、そのプロジェクトがうまくいくことを願っているのは何もモルとテリム、そしてガラタサライの3者だけではありません。
1300万ユーロもの大金をはたいて獲得したわりには2年間で33試合しか出場しておらず、給与分を合わせれば見事に赤字を垂れ流すことになってしまったセルタとしては、恩人であるテリムの元で「本来持っているはずの」力を発揮してもらい、1年間のレンタル期間終了後はガラタサライに買取オプションを行使して買い取ってもらうというのが理想の展開です。
仮にガラタサライがモルの買い取りオプションを行使して完全移籍となった場合はガラタサライからセルタに対して700万ユーロが支払われることになり、今シーズン1年間のレンタル期間中に発生するはずだったモルへの給与200万ユーロと合わせて900万ユーロを節約できることになります。
過去2年間に支払った給与分は仕方がありませんが、セルタとしては3名の監督から戦力外とされた選手にこれ以上投資する余裕はないため、このレンタル移籍に関わった誰もが最終的にはモルが実力を発揮してくれることを願っているのは間違いないでしょう。
GKの入れ替わりとセンターバックの合流
イアゴ・アスパスは遠征前日のトレーニングに参加せず
7月31日で32歳を迎えたセルタの絶対的エース、スペイン代表FWイアゴ・アスパスは、ジムでのトレーニング中に「軽い違和感」を感じたためその日の全体練習には参加しませんでした。
ただしメディカルスタッフによるチェックの結果、大事には至らないだろうとの判断がなされたため、遠征メンバーには引き続き組み込まれチームとともにドイツへ出発しています。
昨シーズン後半、約3ヶ月に渡ってアスパスが負傷により離脱した結果として、セルタはあわや降格というところまで追い詰められました。
3月に行われたビジャレアル戦で伝説的な活躍を見せてチームを救い、その後の残留に救世主的な貢献をしたアスパスですが、同時にこの事実は昨シーズンまでのセルタが「アスパスがいなければどうにもならないチーム」だったことを内外に浮き彫りにしてしまったことも意味しています。
アスパスの復帰が1週間遅れていればビジャレアル戦には敗れていたでしょうし、そうなればこの時に得られた勝ち点3を失っていたことがその後の結果に少なくない影響を及ぼしていたであろうことは容易に想像できます。
ただし幸か不幸か、このことがクラブに現状への危機感を改めて与えることになり、オフシーズンの積極的な補強に結びついたことも否定はできません。
つまりファンや本人が望むと望まざるとに関わらず、現在のセルタはアスパスというカンテラ出身の象徴的な選手によってサイクルが決定される状況にあると言っても過言ではなく、だからこそセルタのメディカルスタッフは最新の注意を払ってアスパスの健康状態に注意を払っています。
オフシーズンに加入したデニス・スアレスもサンティ・ミナも、最終的にセルタ復帰を決断した要因としてアスパスの存在を挙げています。
デニス・スアレスとサンティ・ミナは確かに個人では高い能力を持った素晴らしいプレーヤーですが、例えばアスパスのように「たった1人でチームを救った」ような経験があるかといえば、そうではありません。
90年代のヴラド・グデリや2000年代のアレクサンデル・モストヴォイ、グスタボ・ロペス、そして現在のアスパスのように、現在のセルタには「象徴」として存在だけでファンやチームを安心させられる選手が必要です。
ミナやトロ・フェルナンデスはある意味でアスパス不在の「ある時期」にチームを助けられる存在たり得る選手だろうと期待しますが、実際に「残留」という結果を実現させたアスパスの存在感は他とは比較にならない大きなものになっているのが現状です。
今回の全体練習取り止めは昨シーズンの負担を考えての措置であるはずですし、その負担を今シーズンも繰り返さないための予防措置でもあると言えるだろうと僕は考えています。
昨シーズンの教訓を活かそうとするクラブの姿勢
2018−2019シーズン終了後、セルタのカルロス・モウリーニョ会長はファンに向けたビデオメッセージを、わざわざバライードスで撮影しセルタの公式YouTubeチャンネルを通じて公開しました。
その中でモウリーニョは
2018−2019シーズンは想定外の出来事が起き、それに対応することができずに降格という大きな危機と恐怖に立ち向かうことになってしまった。
来シーズンの我々はこの過ちを繰り返してはならないし、ビーゴの町とあなた方ファンの誇りであるこの空色の旗は永遠にプリメーラ・ディビシオンではためくべき価値を持ったものであることを私は痛いほど理解している。
この過ちを糧に我々はまた新たな歩みを始めることになる。
今こそあなた方ファンの強いサポートと愛情が必要だ。
これからもクラブと共に歩んで欲しい。
と語っています。
同様の趣旨の発言をクラブの決算報告においてもモウリーニョ自身が改めて行っており、このことからもモウリーニョが2018−2019年に直面した状況に多大な危機感を持っていたことがわかります。
自身が会長に就任した直後に経験した数年間のセグンダAにおける経験は、恐らくモウリーニョにとって悪夢としか言いようのないものに思えたはずです。
華やかなプリメーラ・ディビシオンと異なり、セグンダAはスペイン語で「Infierno=地獄」と呼ばれる過酷なリーグ戦です。
プリメーラよりも多い全22チームの2回戦総当り42試合に及ぶ長丁場。
昇格という目標を高いモチベーションを保ちながら約10ヶ月に渡り置い続ける必要がある中で、対戦相手にはそもそも昇格そのものを現実的な目標とは捉えずに牧歌的な試合内容に終始するチームも含まれます。
それでいてリーグからの分配金は同等しか得ることができず、そもそもその分配金はプリメーラと比較して遥かに少ないものです。
3年昇格できなければ同じメンバーを維持する経済力が失われるとまで言われるほど「儲からない」リーグ戦を経験したモウリーニョにとって、再びその場へ逆戻りすることは恐らく恐怖以外の何物でもないでしょう。
しかもモウリーニョがセルタの会長を引き継いだ年の2年前にもセルタはチャンピオンズリーグ出場を実現しながらもセグンダAに降格しています。
当時のオラシオ・ゴメス会長は死物狂いで資金を調達し、どうにかして1年でプリメーラ復帰を成し遂げましたが結果的にはこの年を含めた自転車操業的な資金繰りがその後明らかになる82億円の累積赤字と負債のトドメになったことは、当時を知るセルタファンなら誰でも知っている周知の事実です。
その状況をつぶさに見ていたモウリーニョ本人も、降格という二文字がセルタにとって何を意味するのか、痛いほどよくわかっているのでしょう。
だからこそ、僕は今シーズンに向けて大規模な補強を早い段階で決めたクラブの姿勢に、並々ならぬ覚悟を感じます。
「まずは残留を決めることが今シーズン最大の目標」
と公言するモウリーニョの考える「この先のプロジェクト」がどんなものなのかはまだハッキリとはわかりませんが、僕はこの目標は間違っていないと思いますし、全ては残留を安定的に実現できるチームが出来てからの話になるとも思っています。
開幕の困難な数試合を終えた後にどんな状況が待っているのか。
不安でもあり楽しみでもあるラ・リーガ2019−2020シーズンの開幕まで、あと2週間です。